2011年10月5日水曜日

暴力団排除条例の危うさ


 東京と沖縄で1日、暴力団排除条例が施行され、全都道府県が出そろった。新聞もテレビも、警察庁の発表通りに条例の解説に忙しいが、「‥‥してはいけない」ばかリで、条例がかかえている危うさに言及するものは少ない。本当にわかっているのだろうか?

 そんな中、産経新聞が2日の社会面で、山口組の篠田建市組長(69)のインタビューを載せた。彼はまず「異様な時代が来た」として、条例がこれまでの取り締まりと違うのは、場合によっては一般市民が処罰されることだという。まさに急所だ。

 「やくざといえども、社会の一員。親も子供も親戚もいる、幼なじみもいる。(これらと)お茶を飲んだり、歓談したりするというだけで周辺者とみなされかねない。やくざは人ではないということなのだろう。しかも、一般市民がわれわれと同じ枠組みで処罰されるとは異常だ」

 また、組員・家族については、「組員の子供は今、いじめと差別の対象になっている。家族は別ではないか。ふびんに思う」といい、このままでは「第2の同和問題になる」とまでいう。

 さらに、「取り締まりが厳しくなればなるほど、潜っていかないといけなくなる。それを一番危惧している。解散したら治安が悪くなる」と、組の解散は否定した。構成員が野放しになる方が危ないと。さすがにわかっている。

 暴力団はたしかにやっかいな存在だ。歓楽街や商店街に根を張り、「みかじめ料」やトラブル解決でしのぐのはかわいい方で、バブル期には地上げ、総会屋、ヤミ金融、今では一般の商取引への介入も当たり前。麻薬や銃の密輸では、海外にまでルートを持つ。大相撲の賭博でも顔を出し、芸能界とも長い歴史がある。さらには組同士の抗争も起こす。

 警察庁は昭和39年の第1次頂上作戦以来、撲滅作戦を繰り返してきたが、常にいたちごっこである。篠田組長も「窮地の中で山口組は進化してきた」という。組織員は減るどころか、増えている。社会の「落ちこぼれ」の受け皿としての役割が変わらないからだ。

 今回の暴排条例は、一般人の側から手を回すという点で有効かもしれない。みな法律を守って生きている人たちなのだから。しかし、それには警察が一般人の安全を100%保証しないといけない。それが本当にできるのか? それが不十分だったら、一般人を無防備のまま、ヤクザに立ち向かわせることになる。

 早い話が、島田紳助が右翼とトラブルになった時、警察は何らかの役割を果たしたか? 関西テレビや吉本興業も助けてくれず(これ自体もけしからんが)、1人孤立して引退まで考えたという紳助を、暴力団へと追いやる結果になった。今回警察庁は、その彼を暴排キャンペーンの「一罰百戒」に使ったのである。

 さらにやっかいな問題もある。山口組は、合法的な企業を持った最初の暴力団だ。40年も前、神戸港にいくつも作った荷役会社(ステベ)は、れっきとした企業で、労働争議などで見せるマル暴の顔は、港の秩序維持の役割を果たした。海運局とは、もちつもたれつだった。

 当時は、もしステベが止まれば、神戸港全体が止まった。いわば港の首根っこを押さえる巧妙な仕掛けだった。これをお手本に、その後多くの暴力団が企業化の道をたどった。不動産、建設、金融‥‥

 それらはどれも、先の方では真っ当な企業とつながっている。さらに切実で零細な、遊興や飲食業の人たちがいる。条例をたてに、関係を切れるところはいいが、切れないところはどうなるのか。場合によっては、死活問題にもなる。警察はそこまでの面倒は見まい。

 テレビで解説した弁護士が、「条例違反には、公安委員会から警告が出る。改善がなければ企業名を公表する」といい、さらに「名前が出ると、銀行融資が止まるかもしれない」といった。零細な企業にしてみれば、条例に脅迫されているようなものではないか。

 同じテレビで、ある飲食店主は、「入ってきた客を断ることはできないし、出前もやっているから、配達先がどこだからと断るのは難しい」といっていた。なにしろ相手はヤクザなのだ。スジを通して断って、殴られたり店を壊されでもしたら、あとで警官が駆けつけようと何しようと、痛い目を見るのは一般人である。トラブルを起こせば、その後もおびえて過ごさなければならない。

 そうした日々の生活まで、警察が完全にカバーできるとは到底思えない。むしろ、取引を断るのに、一般人の方がぺこぺこと頭を下げる図になるだろう。きっとそうなる。そのとき警察は、脇に立っていられるか? 怖いお兄さんににらみを効かせることができるか?

 条例を作る方は「ベカラズ」だから簡単だ。警察庁長官は「条例は大きな推進力になる」というが、その矢面に立つ怖さを考えているのか。世の中全部が暴排意識になればそれでもいい。が、それまでの間に、どれだけの「一罰百戒」が繰り返されるだろう。

 篠田組長はこうもいっていた。「結局、警察の都合でしょ。過去にもパチンコ業界への介入や総会屋排除などが叫ばれ、結局、警察OBの仕事が増えた」と。これを、違うと言い切れるか?

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