2011年10月16日日曜日

取材過程がさらされる


 小沢一郎・民主党元代表の記者会見はひどいものだった。小沢氏には、後になって批判が出たりしているが、まあ当然だろう。しかしそんなことはどうでもいい。問題は記者の方である。世界中を探しても、全体主義国家以外でかくも従順なメディアはないだろう。

 「国会での説明責任」を問うた記者に、小沢氏は「君はどう考えているの、三権分立を」と逆質問。この詭弁に記者が立往生して「もっと勉強して来なさい」とやられてしまった。そこで引き下がってどうする。他の記者から助太刀も出ない。

 また、4億円の素性を聞いた記者には、「検察に聞いて下さい」。さらに3人目の質問には、「ルールを守りなさいよ」ときた。司会者が冒頭、質問を4つに限り、新聞・テレビとフリーの記者に各2問としたのを「ルール」だという。最初につぶやいた「今日はサービスするか」が聞いて呆れる。

 しかし、記者たちは反論せず、「ルール」を黙って受け入れた。「三権分立」も想定済みの切り返しだろうが、詭弁である。三権は分立しているからこそ、国会での証言を拒む理由にはならない。裁判に影響するといういい方自体が、裁判官に失礼だろう。しかし、こうしこうした言葉が記者の口から出ることはなかった。

 テレビ会見の怖さは、取材過程がさらけ出されることだ。カメラは何でも記録する。記者がへっぽこだと、それがそのまま視聴者に伝わってしまう。まして言い負かされてしまっては、あとでいくら立派な記事を書いたところで、だれも信用してくれないだろう。自分たちも見られているーーこの怖さを、記者たちがどれだけ自覚しているか。

 あれは、小泉首相だった。イラクへPKOを派遣する根拠に、「憲法の前文に、世界平和に貢献し、とある」とやった。側近の入れ知恵だと後で聞いた。これに対してだれ1人、「総理、憲法には本文もありますよ」といわなかった。テレビニュースを見ていて、記者がなぜ反論しないのかと、いらいらした人は少なくなかったのである。

 小沢会見はそもそも、記者会見なんてものではなかった。「オープンの会見」と呼んでいたらしいが、ちゃんちゃらおかしい。記者会もフリーの記者もいたというだけのこと。小沢氏はこの1年ほど、フリーの記者たちのネットの会見によく出ている。つまり、フリーと記者会とで対等だということらしい。どちらであれ、「ルール」を受け入れた時点で、記者の側の負けである。

 もしこれが30年前、40年前だったら、「質問を4つだけ」というだけで、その場にいた全員が口々に叫んでいただろう。「何でだ?」「そんな会見があるか」「質問が怖いのか」「聞きたいことは山ほどあるんだよ」

 「君はどう考えているの?」なんて言おうものなら、四方八方から矢が飛んできただろう。日頃激しく競争してはいても、理不尽なことにはみなひとつになったから、質問に質問が重なって、ああいえばこういうも当たり前。ただし、どちらも真剣だった。小沢氏のような、はすっぱな調子で記者をバカにする政治家なんていなかった。

 思うに、今の記者たちはむろんのこと、小沢氏自身がその時代を知らないのであろう。すでに国会議員だったと思うが、まだ駆け出し。自民党幹部として記者たちに囲まれるようになるのは、20年もあとだ。その頃は両者の力関係が変わっていた。

 「メディアは、オレがいった通りを書けばいい」が小沢流だ。これ実は、小沢氏が大嫌いな検察官の言い草というのも皮肉だが、記者たちがこんなことを守るはずはない。とりわけ小沢氏の場合は、見出しになる言葉が少なく、思わせぶりばかりだから、だれも素直には書かない。

 身辺が身ぎれいでないから、逆に嫌な質問は山ほどある。これが嫌だからと、インタビューはおろか会見もしない。これを自民党幹事長時代からずっと通してきた。民主党になってからでも、「会見はサービス」といっていた。許してしまったのはメディアの側である。

 記者たちはなぜ、こんなにおとなしくなってしまったのか。ひとつはテレビがあるようだ。テレビカメラは、映像も音声も丸々記録してしまう。かつてのような、ざっくばらんな、時にははげしいお言葉の応酬はなくなり、紋切り型の質問ばかりになった。

 最近はまた、音はICレコーダーで録り、パソコンを持ち込んで発言をいきなり叩いている。だから、発言のフルテキストがすぐ出てくるのだそうだが、これではキーパンチャーであって、とても記者とはいえまい。

 おかしな答えや失言があっても、文句やブーイングすらないのも合点がいく。瞬時の切り返しはおろか、ああいえばこういうができるわけがない。ひたすらキーを叩き続けるご用聞きである。

 だから、あんな政治家ができる。小沢一郎を作ったのは、だれなんだ。テレビの視聴者は、とうにそれに気づいている。気づかないのは記者ばかり。これで報道の自由なんていえるのか。

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