2012年2月28日火曜日

賞味期限伸ばしに手を貸すな


 いや驚いた。23日の朝日新聞1面に小沢一郎氏の大きな写真と「インタビュー」である。しかもご丁寧に「あすの朝刊に詳報」ときた。その「詳報」は、オピニオン面をドカンと埋めていた。彼が紙面に「囲み」で出るのは、10日余の間に4回である。朝日はどうかしちゃったか?

 小沢氏は、世の中乱れると決まって元気になる。「消費増税」では与野党とも賛否が分かれたから、まさに絶好というのだろう。あちこちで激しく野田政権を攻撃して、「倒閣に動き出した」とまでいわれている。

 また、小沢氏が被告になっている政治資金規制法違反の証拠採否で東京地裁が17日、元秘書で衆院議員の石川知裕氏の調書を証拠採用しなかった。検察官役の指定弁護士にしてみれば、「小沢氏関与」立証の大きな柱を失った。小沢氏には追い風だ。

 さっそく翌18日には鹿児島で、「正しいことを貫く政治家が少ない」などと語っているのだから恐れ入る。この場には鳩山由紀夫元首相もいて、「消費増税」に「ノー」といっていた。選挙が念頭にあるとはいえ、とても同じ政党の人間とは思えない。

 消費税では一昨年の参院選でもそうだった。当時の菅首相が突然「消費税」といい出して党内が困惑しているとき、小沢氏は自分の子飼の選挙区を回っては、「消費税は上げません」とやっていた。それをまた、テレビが流す。そんな政党だれが信用するか。案の定選挙は惨敗で、参院のねじれを作ってしまう。

 するとまた、小沢氏は元気になった。さすがに代表選には出なかったが、ことごとく菅内閣の足を引っ張って、長い長い「菅おろし」を展開する。陸山会の土地取得問題で強制起訴され、さらに東日本大震災が起って、いっときはなりをひそめたが、菅首相の災害対策がまずいと見ると、小沢グループが動き出した。その後のすったもんだはご存知の通り。

 小沢氏の誤算は、代表選で野田氏に破れたことだった。絶対に勝てるはずが、「どじょう」のひとことでひっくり返る。まさに天の配剤だったのだろうが、小沢氏の存在は相変わらず、民主党の機能不全のもとになっている。「消費増税」をテコに今度こそは、と思っているのだろうか。

 まあ、そんなことはどうでもいい。それよりも,これを報ずるメディアの方だ。この間実にていねいに小沢氏の動向を字にしている。最近では「小沢一郎政治塾」(13日)。ほとんど内容もないのに各紙とも格好をつけている。前述の鹿児島も必要のない記事だ。朝日はおまけに単独インタビューときた。

 小沢氏が政局のひとつの目であるのは確かだが,いってることは消費増税反対とマニフェストを守れ、それ以外は政局だ。マニフェストがとても守れないことは,国民の方が知っている。消費税論議でも、有権者はかなり考えたうえでの賛否になっている。

 それ以上に、小沢グループが、民主党混乱の元凶であることもわかっている。ところが,彼らが何をしているのかが全く見えない。未曾有の震災でも、小沢氏をはじめ彼らが知恵を出したり汗を流したという話は皆無だ。

 数では党内最大とはいえ、その大部分はチルドレン。その一年生議員に「君らの仕事は次の選挙で勝つこと」とぶったのが、小沢氏だ。メディアはそれをそのまま伝えて、恥ずかしいとも思わない。有権者に聞けば、「世界一高い歳費をもらっていながら、そんな議員要らない」というだろう。

 派内には人材もいない。送り込む大臣は問題続出で、これまた政府の足を引っ張っているのだが、そんなことは知らん顔。おまけに彼は被告の身だが、裁判でカギとなる証拠が不採用になったことで、またぞろ元気になってきた。

 消費増税法案の提出をめぐっては、「不信任案に同調も」という脅しをちらつかせる。「党を割ったら民主党は終わり」「だから解散はあるまい」という読みである。ところがどっこい「どじょう」宰相の「不退転」は,どうやら本気。「小沢グループを切ってでも」という読みが出てきた。となるとこれは面白いチキンレースだ。

 不信任案に賛成して、グループが除名を食らったところで解散となったら、チルドレンは丸裸で選挙戦に放り出される。実績も名前もない彼らがどうなるかは火を見るより明らかだ。チルドレンだってバカじゃない。どこまで親分についていくか。民主党だって,小沢一派がいなくなったらすっきりする。

 それに選挙となれば、焦点は大阪、名古屋方面の動きになろう。自民党を見限って政権交代をさせた民意は、いまや民主党をも見限っている。「強いリーダーを」という声が求めているのは、小沢流の「剛腕」ではあるまい。小沢氏も彼の政治手法ももはや賞味期限切れなのである。

 にもかかわらず、報道が小沢氏にかくも手厚いのはなぜか。それも朝日がなぜこれほどまでに?

 「いった通りを書け」「質問も論評も要らない」――これが小沢流である。発言垂れ流しの「ニコニコ動画」が大好きなのはそのためだ。朝日が単独インタビューできたのは、「その通り書きます」と約束したからだろう。「ニコニコ動画」になったわけだ。いってみれば、賞味期限伸ばしに手を貸しているようなもの。有権者はバカじゃないぞ。

2012年2月3日金曜日

ニュースのお値段


 朝日新聞の電子版「アサヒコム」が「朝日新聞デジタル」に統合された。正月に「デジタルで1年間の検索が可能になりました」とあったので、「やっと気がついたか」と思ったのだが、どうやら違った。むしろ有料化が一歩進んだようだ。

 昨年5月にスタートした「朝日新聞デジタル」はいま、契約者が6万人という。しかしそのほとんどが紙との併読で、年齢層も40-50歳だそうだ。この年齢を下げるべく努力しているというが、これは至難のワザだろう。30歳以下は、子どもの頃からPCとネットがあって、「ネットの情報はタダ」が当たり前だ。

 朝日は「ネットでも価値ある情報は有料で」と主張するが、いまひとつ説得力に欠ける。全部HPに出ている官庁の発表が、有料ページに出ているというバカな話。ナマの発言まで見られるテレビのサイトや、紙面そのものが読める新聞サイトもあるというのに、同じニュースに金を払えといっても、若者が寄りつくはずがあるまい。

 統合された後、「デジタル」の記事は,紙面でいう前書きだけになってしまった。つづきを読みたい人は「ログイン」画面に誘導されてしまう。大方はそこで、別のソースを探しにかかるはずである。同じ記事はどこかに無料であるからだ。

 冒頭「気がついたか」といったのはこのことである。googleなどでニュース検索をすると、産経、毎日などに較べ朝日の記事は極端に少ない。ニュースサイトへの提供もなく,リストから消えるのも早い(役に立たないからすぐ下位になってしまう)。ネットでは、朝日はほとんど存在しないも同然なのだ。このマイナスをわかっているのだろうか。

 こうした課金モデルで押しているのは日経と朝日だ。これまでの「アサヒコム」はCMモデルというらしい。つまりは宣伝。タダが基本だが、深い検索は有料という考えだったが、「朝日デジタル」1本になった。他の新聞は概ねCMモデルで、ネットのニュースサイトへも提供するなど無料の幅が大きく、それがネット検索での差に出ている。

 これらも春にはほぼ一斉にスマホ向けの有料化に動くようだが、カギはやはり料金だろう。「朝デジ」式に新聞購読料に近い値段だと、たちまちカベにぶつかるはずだ。「朝デジ」の契約数と内容がそれを裏付けている。

 読者が求めているのは、スマホやタブレットで読める新聞そのものなのである。動画でもなければデジタル独自のコンテンツでもない。玉石混淆のネットの世界だからこそ、新聞情報は信頼性で最後のよりどころになる。できれば連載も読みたい、評論も読みたい。

 さて、そこでいくらまでなら払う気になるかだ。「朝デジ」は新聞との併読で月1000円だが、新聞とほぼ同じものに金を払うのは、外出している間に携帯端末で読もうということだろう。これに1000円は高くはないか。これがもし、500円、300円だったらどうか。話はがらりと変わるのではないか。

 ましてネットだけの契約は3800円と、ほぼ新聞購読料と同じだ。これは日経でも、一部雑誌でも似たような値付けである。多分横を見ら見ながらの設定だが、ネットの常識からは、いかにも高い。投資したのだから、はわかるが、読んでくれなければ始まらない。「価値ある情報?」。笑わせるな。そんなもの年に何回もあるものか。

 朝日の収益は、90%近くが紙の新聞による。この割合をなんとか下げたいと、四半世紀も前から様々なことをやった。が、何ひとつ成功しなかった。逆にいえば、新聞がいかに強いかである。読者の信頼も紙にあり、記者も紙から育つ。

 新戦略は「紙とデジタルの融合」だという。4-50人の「デジタル編集部」を立ち上げて、独自の記事も出るというから、新しい媒体を立ち上げるということである。しかし、採算に乗るには「5年か10年」と気の長い話だ。

 電子版のそもそもは、取材記者のための社内の記事検索システムである。デジタル編集で朝日は1歩も2歩も、いや世界でも先端をいっていた。インターネットになって、その記事データを利用して始まったのが「アサヒコム」だ。これはぶっちぎりで新時代を開くと大いに期待されたものだった。

 安い値段で古い記事の検索ができれば、朝日のアーカイブスは,日本はおろか世界からも利用されるだろうと思ったものだ。しかしそうはならなかった。高い利用料金が立ちはだかったのである。

 一度、昔書いた記事を検索しようとしたことがある。料金はなんと1本80円だった。「バカヤロウ。オレの記事はそんなに高くねぇや」。そもそもを間違えたのである。ネットの効用を理解できなかった。理解していれば、googleになっていただろう。

 確かに経費はかかる。デジタル検索をするには、キーワードの設定だけでも、大変な人手が要る。機器やシステムの整備にも金はかかる。だが、それを利用料で回収しようとすること自体が間違いである。むしろ純然たるCMモデルでよかった。これ以上のCM効果が他にあるものか。

 とはいえ、もしこれが1本10円だったら? 20円だったら? ポイントはここだ。「朝デジ」も同じである。ネットは「タダ」が常識の世界。なれば「タダ」にどこまで近づけられるか。たとえ有料にしても、そこが勝負どころだろう。

 紙の新聞のデジタルデータは日々蓄積する。そのアーカイブスこそが値打ちなのである。CMモデルで,まずは利用者を増やすこと。ソロバン勘定や新たな城作りなぞは,読者が増えてから考えればいい。