2012年2月3日金曜日

ニュースのお値段


 朝日新聞の電子版「アサヒコム」が「朝日新聞デジタル」に統合された。正月に「デジタルで1年間の検索が可能になりました」とあったので、「やっと気がついたか」と思ったのだが、どうやら違った。むしろ有料化が一歩進んだようだ。

 昨年5月にスタートした「朝日新聞デジタル」はいま、契約者が6万人という。しかしそのほとんどが紙との併読で、年齢層も40-50歳だそうだ。この年齢を下げるべく努力しているというが、これは至難のワザだろう。30歳以下は、子どもの頃からPCとネットがあって、「ネットの情報はタダ」が当たり前だ。

 朝日は「ネットでも価値ある情報は有料で」と主張するが、いまひとつ説得力に欠ける。全部HPに出ている官庁の発表が、有料ページに出ているというバカな話。ナマの発言まで見られるテレビのサイトや、紙面そのものが読める新聞サイトもあるというのに、同じニュースに金を払えといっても、若者が寄りつくはずがあるまい。

 統合された後、「デジタル」の記事は,紙面でいう前書きだけになってしまった。つづきを読みたい人は「ログイン」画面に誘導されてしまう。大方はそこで、別のソースを探しにかかるはずである。同じ記事はどこかに無料であるからだ。

 冒頭「気がついたか」といったのはこのことである。googleなどでニュース検索をすると、産経、毎日などに較べ朝日の記事は極端に少ない。ニュースサイトへの提供もなく,リストから消えるのも早い(役に立たないからすぐ下位になってしまう)。ネットでは、朝日はほとんど存在しないも同然なのだ。このマイナスをわかっているのだろうか。

 こうした課金モデルで押しているのは日経と朝日だ。これまでの「アサヒコム」はCMモデルというらしい。つまりは宣伝。タダが基本だが、深い検索は有料という考えだったが、「朝日デジタル」1本になった。他の新聞は概ねCMモデルで、ネットのニュースサイトへも提供するなど無料の幅が大きく、それがネット検索での差に出ている。

 これらも春にはほぼ一斉にスマホ向けの有料化に動くようだが、カギはやはり料金だろう。「朝デジ」式に新聞購読料に近い値段だと、たちまちカベにぶつかるはずだ。「朝デジ」の契約数と内容がそれを裏付けている。

 読者が求めているのは、スマホやタブレットで読める新聞そのものなのである。動画でもなければデジタル独自のコンテンツでもない。玉石混淆のネットの世界だからこそ、新聞情報は信頼性で最後のよりどころになる。できれば連載も読みたい、評論も読みたい。

 さて、そこでいくらまでなら払う気になるかだ。「朝デジ」は新聞との併読で月1000円だが、新聞とほぼ同じものに金を払うのは、外出している間に携帯端末で読もうということだろう。これに1000円は高くはないか。これがもし、500円、300円だったらどうか。話はがらりと変わるのではないか。

 ましてネットだけの契約は3800円と、ほぼ新聞購読料と同じだ。これは日経でも、一部雑誌でも似たような値付けである。多分横を見ら見ながらの設定だが、ネットの常識からは、いかにも高い。投資したのだから、はわかるが、読んでくれなければ始まらない。「価値ある情報?」。笑わせるな。そんなもの年に何回もあるものか。

 朝日の収益は、90%近くが紙の新聞による。この割合をなんとか下げたいと、四半世紀も前から様々なことをやった。が、何ひとつ成功しなかった。逆にいえば、新聞がいかに強いかである。読者の信頼も紙にあり、記者も紙から育つ。

 新戦略は「紙とデジタルの融合」だという。4-50人の「デジタル編集部」を立ち上げて、独自の記事も出るというから、新しい媒体を立ち上げるということである。しかし、採算に乗るには「5年か10年」と気の長い話だ。

 電子版のそもそもは、取材記者のための社内の記事検索システムである。デジタル編集で朝日は1歩も2歩も、いや世界でも先端をいっていた。インターネットになって、その記事データを利用して始まったのが「アサヒコム」だ。これはぶっちぎりで新時代を開くと大いに期待されたものだった。

 安い値段で古い記事の検索ができれば、朝日のアーカイブスは,日本はおろか世界からも利用されるだろうと思ったものだ。しかしそうはならなかった。高い利用料金が立ちはだかったのである。

 一度、昔書いた記事を検索しようとしたことがある。料金はなんと1本80円だった。「バカヤロウ。オレの記事はそんなに高くねぇや」。そもそもを間違えたのである。ネットの効用を理解できなかった。理解していれば、googleになっていただろう。

 確かに経費はかかる。デジタル検索をするには、キーワードの設定だけでも、大変な人手が要る。機器やシステムの整備にも金はかかる。だが、それを利用料で回収しようとすること自体が間違いである。むしろ純然たるCMモデルでよかった。これ以上のCM効果が他にあるものか。

 とはいえ、もしこれが1本10円だったら? 20円だったら? ポイントはここだ。「朝デジ」も同じである。ネットは「タダ」が常識の世界。なれば「タダ」にどこまで近づけられるか。たとえ有料にしても、そこが勝負どころだろう。

 紙の新聞のデジタルデータは日々蓄積する。そのアーカイブスこそが値打ちなのである。CMモデルで,まずは利用者を増やすこと。ソロバン勘定や新たな城作りなぞは,読者が増えてから考えればいい。

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