2011年10月7日金曜日

半年経ってようやくか?


 朝日新聞が朝夕刊で同時に2つの「原発追及」の連載を始めた。朝刊は「プロメテウスの罠」という、福島原発事故直後の入念な現地ルポ。夕刊は「原発とメディア」で、原発報道の軌跡をたどる。

 「メディア」の方は、原発報道の最初期を担当した老記者への聞き書きから始まった。メディアが平和利用を支えてきた事実を、どこまでさらけ出すか。初回には、湯川秀樹が「平和利用は生やさしいものではない」と懐疑的だったとあって驚いた。

 「プロメテウス」の方は、もう少し切実な内容だ。初回が「防護服の男」シリーズ。事故直後の原発周辺の住民の間を、防護服で走り回っていた男たちがいた、という書き出しだ。住民は汚染状況も満足に知らされないまま放置された様が描かれて、不気味な展開である。長い読み物になるらしい。

 と、これと並んで4日の朝刊に、日立の作業責任者2人のインタビューが載った。現在と事故直後の福島第1原発の様子を語る。全体を把握していた当事者が直接語るのは初めてである。だが、1面に現在の様子、社会面に事故直後の話、ともになんとも突っ込みのない中途半端で、読んでいてイライラした。

 内容はある意味衝撃的である。地震があった時、第1原発に6400人もいたという。驚いた。この数は原発のイメージを変える。たしかに登録作業員数は1万人近いのだが、当日は1000人とかそんな数をいっていた。それが6400人も同時に働いていただと?

 とんでもない労働集約の現場ではないか。それでも原発はコストが安いってか? 彼らはどこで何をしていたのか。それが原発というものの実像になる。しかし取材した記者は、数字だけで素通りしてしまった。

 これ実は、事故直後に1000人と聞いたときにも、知りたかった。あまりにもイメージと違ったからだ。そのギャップはついに埋められなかった。報道に全く出てこなかった。今回の記事でもやっぱりだ。記者がその気でないと、何も出てこない。

 とにかくその日は、日立だけで1800人。即座に避難命令が出て、大半は大急ぎで退避したらしい。車が大渋滞したという。ところが、その後の津波の状況が話に出てこない。ということは、いったん外に出ていたということか?

 日立のチームはその夜、東電の要請を受けて、残った30人くらいで1、2号機の電源復旧を始め、未明まで続いたという。12日に1号機が爆発した時は原発の外にいた。戻ってみると、つないだ電源ケーブルがボロボロ。作業員に意志を確認すると、ほとんどが帰宅を望んだ。

 そして14日、残った作業員4人で2号機建屋内で電源復旧作業中に、3号機が爆発した。外へ出ると、乗ってきた車ががれきでつぶれていた。「終わりだ」と思ったという。がれきを踏み越えて防護服とマスクで走って逃げた。呼吸が苦しい。1キロ先の免震重要棟まで30分もかかった。東電が会見で「7人が行方不明です」と平然といったのは、この時だ。

 15日の爆発の後、作業員は退避。東電中心の70人だけになった。ちょうど菅首相が東電に乗り込んで、「撤退はありえない」と叫んでいた頃だ。そうか、東電の弱気は、手勢(下請け作業員)がいなくなったためか。社員を現場に入れるのが嫌だったんだ。

 このとき原発正門では10㍉シーベルト超を観測していた。しかし、日立はその後、課長級以上と下請けの社長ら30人が再び作業に戻ったという。この使命感はすごい。

 この後の展開の大筋はわかっている。自衛隊と消防庁の放水映像を見た。津波が建屋を飲み込む画像もあった。ジーゼル建屋の水没も原子炉のメルトダウンもいまは知っている。しかし、いまもって事故直後の原発内の全体像は描けていない。

 あらためて思う。連載にしろインタビューにしろ、こんな程度のことがわかるのになぜ半年もかるのか。いま取材できることは半年前でもできたはずだ。ナマ情報は人の口からしか出ない。住民は避難所にいた。原発では人の出入りもある。資材の搬入もある。関係企業もある。専門家もいる‥‥その時点なら、しゃべる人間を探すのは、いまよりはるかに容易だったろう。

 要するに取材しなかった、その気がなかったのである。放射能が怖かったのか。使命感が希薄だったのか。お陰で7ヶ月経ってなお、全容は描けない。依然として点と線の謎解きのままだ。

 今回の証言でも、ほんのわずかが埋まっただけである。日立以外の作業員はどうしたのか。かなりの数が作業に戻ったことは、連日800人からいたことでわかっている。しかし、実際彼らが毎日どこで何をしていたのかは、わからない。断片的に記事は出た。が、それ自体が点と線だったのである。

 インタビューは怖いものだ。何を質問するか、あるいはしないかで、記者自身が問われるからである。今回はいささかアナを見せてしまった。せめて日立の技術者の使命感を感じ取れ。そして、もうちょっと突っ込んで聞け。でないと、せっかくの特ダネが泣く。

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