2011年7月2日土曜日

猿知恵メディアは要らない


 日本原子力研究開発機構が、福島原発から流出した放射性セシウム137の拡散状況をシミュレーションした。保安院発表をもとに、放出量を8450兆ベクレル(??)と仮定し、海流から1年後に4000キロ沖合、3年後にハワイ、5年後には米西海岸に達するが、結論を言うと、薄められて人体への影響はない、という内容だ。

 この報道が奇妙だった。産経は、「1年後の濃度は、核実験が繰り返された昭和30年代の3分の1」として、それが見出しになっている。毎日は、「半年後には過去のピーク時のレベル、7年後には10分の1」として、見出しは「海に拡散、濃度は低下」とだけ。

 また両紙とも、1年間汚染海域でとれた海産物を摂取した場合は、「年間1.8マイクロ・シーベルト」で、一般人の内部被曝限度量1㍉シーベルトの500分の1と書いている。ただ、これを「過去のピーク時(同1.7)とほぼ同じ」と書いたのは産経だけだった。

 他紙には載っていない。時事通信は、「5年後に米西海岸に到達。海水の放射能濃度を10%押し上げる」と。共同通信も「1年後には、50年前の3分の1、7年後には過去の汚染と見分けがつかなくなる」と、ともに短信並みだ。朝日はasahi.comだけ、それも時事電だった。どういう判断なのか、理解に苦しむ。

 同じ資料なのに、どこをつまむかで印象が大きく違う。いちばん「安全だ」と読めるのが産経で、毎日はほぼ同じ内容だが、見出しが弱い。テレビは知らないが、新聞各紙の関心は薄い。安全ならニュースではないのか。

 気仙沼で動き出したカツオをはじめ、魚介類の安全はいま最も関心が高いテーマだ。が、まだデータがない。水産庁の調査も、広い太平洋に点がひとつ、ふたつといったところだ。たとえシミュレーションでも、漁業関係者にも消費者にも明るい手がかりである。これを無視、軽視するとなれば、何か理由がありそうだ。

 「シミュレーションなんか」というのか。事故のあと、放射性物質拡散を予測したSPEEDIのシミュレーションをネグった結果をもう忘れたのか。それとも、原子力機構は「東電のお仲間だから」とでもいうのか。下手をすれば機構自体が危なくなるという状況下で、危険な賭けをするほど狡猾ではあるまい。では何だ?

 ひょっとして、50年前についての理解の差かな、と思ってしまう。産経はすでに、つくば市の気象研究所のデータをもとに、「いまの東京の土壌の放射線量は、1960年代初めと同じ」という記事を大きく載せている。これは60歳以上には覚えのあることで、まだ子どもだった50代でも、「雨に濡れると頭が禿げるぞ」といわれたのを覚えていよう。

 米ソの核実験競争の結果、地球の汚染はそれほどひどかったのである。しかし、これを字にしたのは産経と週刊誌の一部だけで、他の一般紙もテレビもほとんど触れていない。「東電を利する」と見られるのを恐れたのか? こういうのを猿知恵というのだ。

 いまの50歳以上の日本人は全員、いや世界中が、現在の関東・東北とそう変わらない汚染の元で一時期を生きたことは事実なのだ。冷戦下で情報は抑えられ、知識もなかったからパニックにもならず。また地球上どこにも、逃げていくところなんかなかったのである。

 その結果、ガンの発生率がどれだけ高くなったか、そんなことはだれにもわからない。これだけの歳月を経てもなお、放射能の人体への影響は、ほとんどわかっていない。基準値に幅があるのも、科学的根拠から直接導かれたものではないからだ。

 明らかなのは、ある時期全地球人がモルモット状態におかれて、その汚染下で生きた年代が、バタバタ死ぬどころか大方は元気で、寿命さえ伸びていることである。だから、福島原発の近辺はともかくとして、東京だのもっと西の地域までがうろたえる必要などないのだ。

 若い人たちは、人間の愚かさの実例として、この事実は知っておかないといけない。新聞は知らせないといけない。これを意図的に抑えるのは、結果的にパニックをあおったといわれても、仕方がなかろう。もっとも、恐ろしくて30キロ圏内に入っても行けないメディア自体が、すでにパニックだったといえなくもないが‥‥。

 どうも世論の流れに迎合して、記事を選んではいないかと気になる。これは、民放テレビではとうのむかしに始まっている。スポンサーもあるし、ある意味宿命みたいなものだ。しかし、もし新聞までがそうだとしたら、そんな新聞要らない。読みたくない。

 週刊ダイヤモンドのオンライン版に、群馬大が実測値から作成した放射能汚染地図が載った。地形図の等高線みたいに、等値線で描いているから、汚染の広がりと濃度が一目瞭然だ。ちょっと衝撃的ですらある。

 で、その記事がよかった。「新聞報道は、数字だけで要領をえない。新聞より雑誌のほうが役に立つ」と、他の週刊誌の例もひいていた。たしかに新聞の汚染地図は日々の数値を網羅しているが、読む方が考えないといけない。

 ITの時代だ。日々の放射線量の推移を、群馬大方式に置き換えることなどたやすいことだろう。頭を柔らかく、先入観なし、猿知恵なしに、伝えるべきものを見落とさないでもらいたいものだ。

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