2011年7月24日日曜日

週刊誌の機転が冴える


 肉牛の放射性セシウム汚染は、とうとう松阪牛にまで及んだ。宮城県の稲わらを食べさせていたためだという。あらためて日本は狭いと思う。牛の移動だけでなく、エサも何百キロも離れたところへ送られていた。これでは防ぎようがない。

 農家にしても、原発からはるか80キロも100キロも離れたところで、稲わらからかくも高い放射線量が出るとは思っていなかった。原発事故の後に刈り取った草や稲わらは牛に与えないようにと、お触れは出ていたというが、牛乳であれだけ大騒ぎをしながら、肉牛に目配りを欠くとは、農水省もお粗末極まる。

 追跡調査で、残っていた肉から一部で国の規制値500ベクレル/キロを上回る数値が出た。が、規制値以下のものもある。すでに食べちゃった人たちは、どっちだったかわからない。追跡調査をしても、こればかりはどうにもなるまい。

 知りたいのは、この規制値500ベクレルが何ほどのものかだ。松阪牛では規制値よりかなり低かった。が、出荷自粛だという。じゃあその肉はどうなるのか。また、多少規制値より高くても大丈夫という専門家もいる。むろん、すでに食べちゃった人へのコメントだ。じゃあお前さん、ひとつ食べてみるか?

 要するに500という数値自体がよくわからないのだ。これが一向に新聞には出てこない。目にしたのは週刊誌である。「週刊ダイヤモンド」が専門家のインタビューを載せていた。崎山比早子さんという、元放射線医学総合研究所主任研究員である。

 話のポイントは2つ。放射線被曝の長期にわたる人体への影響を判断するのは、広島・長崎の生存者9万人の生涯追跡調査が元であること。もうひとつは、どれだけ以下なら安全かという「しきい値」はないということだ。

 広島・長崎の生存者は、平均で200㍉シーベルト(半数以上は50mSv)という高濃度汚染だったが、現行の規制値は、これを直線的に低線量に置き換えて、国際放射線防護委員会(ICRP)が出した勧告が元になっている。他にチェルノブイリの周辺調査も25年の積み重ねがあるが、しきい値がないという以上、500という数字ですら安全とは言い切れないことになる。

 しかし一方で、低線量の領域になると、日常さらされている医療や自然放射能と大差ない。だから、大丈夫だという人もいる。事実60年代には、各国の核実験によって地球全体が相当な高濃度汚染にさらされていた。これが福島と較べてどの程度の汚染であったのか。知りたいのはここだ。

 現状から逃げることは出来ない以上、少なくとも、いまがどの程度の「地獄」なのかが知りたい。だが、新聞・テレビは、この程度の基礎的なことすら、わかりやすい形では伝えていない。視点が定まらない。機転もない。規制値を上回った、下回ったという話ばかりで、右往左往する役人や政治家の後ろを走っている。

 いま焦点の「西日本の電力不足」を、独自の試算から「ウソ」と断じたのも同誌だった。電力各社の発表をもとに、安定供給の目安となる「供給予備率」から最大出力と供給力との差に切り込み、「隠しだま」を洗い出して、西日本で最大1500万キロワットの余力があるとはじき出した。余力はまだ他にもあって、「原発停止=電力不足はウソだ」という分析は説得力があった。

 表の数字ではたしかに電力不足が懸念される。しかし、節電の呼びかけには、原発停止に対する電力業界の巻き返しの臭いがする。「このままでは企業が海外に逃げてしまう」「経済的打撃が大きすぎる」と、経団連までが声高に政府を攻撃する。同誌は、これに切りこんだのだ。

 これを読んで、いま新聞にこれをやる能力があるだろうかと心配になった。むろんできないことはないだろうが、なによりも発想である。思いつかなければ、何も出てこない。

 案の定だが、22日の朝日の社説は、「西日本も、さあ節電だ」だった。まあ、お人好しというかなんというか、「電力不足に陥りそうだという」「当面は節電でしのぐしかない」と。さすがに「もっと根拠のある数字と説明を」と書いていたが、要は旗ふりそのものである。電力業界はほくそ笑んでいたことだろう。

 日頃発表の場からは外されていることが多い週刊誌は、まさに発想が勝負だ。「週刊ダイヤモンド」は時に意表をつく特集や切り込みが売りである。だが、発行部数は15万部ちょっとだ。朝日の論説も読んでいなかった。もし読んでいたら、ああまで素直な社説にはならなかっただろう。

 先週の週刊ポストがやった、ガイガーカウンターの能力較べは傑作だった。5万円のカウンターは50万円のものの倍の値が出た、というのだ。安い方のカウンターは、一般市民がいま大いに使っている。その高い数字をもとに、ああだこうだいっている新聞・テレビへの痛烈な一撃だった。

 週刊誌の目配りが冴えている。ひるがえって大手のもディアは、相変わらず表の発表を素直に伝えるばかり。ツイッターのコピペと変わらない。いや、ツイッターは裏の情報があふれているから、刺激としては上かもしれない。

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