2011年3月30日水曜日

原発哀史?


 朝日新聞(27日付)に、東電福島第2原発の女性社員が、本社幹部にメールしてきた現場の状況というのが載った。原発の現地で働いている人間の声が伝わるのは、これが初めてだ。

 「第1、第2とも所員の大半は地元民で、被災者。私も実家が津波で流され、両親は不明。でも、緊急対策本部で缶詰のうえ、家が退避指示区域なので入れない。みんながんばってますが、こんな精神状態での過酷な労働、もう限界です」とある。

 第1原発の復旧サポートもしているようで、「現場はまるで戦場のよう。みな心身ともに極限まできている」。さらに、「地震は天災です。でも、放射性物質による汚染は、東電がこの地にあるせいです」とまでいう。

 追いかけて29日の読売新聞が、第1原発で働く作業員たちの様子を伝えた。何百人もが毛布1枚で雑魚寝。朝はビスケットと野菜ジュース、夜は発熱弁当と缶詰の1日2食。風呂、シャワーなし、着替えもろくにないと。いかに非常時とはいえ、メシも満足に食わせないとは、どういうことか。

 どちらも、作業員たちが具体的にどんな仕事をしているのかは、書かれてなかった。朝日の記事によると、昨年7月の時点で、2つの原発で東電社員 1850人、関連・協力会社9500人が働いていた。その9割が地元だという。驚いた。原発というのは、人っ気がなく、制御室のボタン操作、がイメージだったからだ。

 そういえば、地震のとき4つの原子炉で1000人はいた、とテレビで話す作業員がいた。「運転中だった原発だろ。何のために?」と思った。建設工事だって、そんなには要るまい。いま第1だけで400人とも500人というが、放射能汚染の中で、短時間の作業をつないでいくためなのだろう、くらいにしか思っていなかった。

 あらためて、いったい何の仕事をしているのだろうと思う。事情を知っている友人に聞いてみた。すると、原発といえども発電所なので、法律に基づく各種のメンテ作業が目白押しなのだと。なるほど、原子炉だけが最新技術で、あとは労働集約型ということか。しかも、メシは日に2食で? それじゃあ“原発哀史”ではないか。

 事故が起こった後、原発で何が行われたのかも、いぜんわからないままである。外部からの電源導入に配線作業はあった。これはわかるが、あとは自衛隊、消防による放水、そしてタービン建屋に入った3人が被曝した。それだけだ。あとの何百人はどこで何をしていた?

 その前、原子力安全・保安部が発表する内容は、原子炉や燃料プールの様子、それも現場を見ていない推測ばかりだった。当然だろう。津波以来、制御室は暗闇だった。爆発で本館のガラスが割れていたこともわかった。ではどこから、だれが、どんなシナリオをもとに、作業員に「過酷な」「極限」労働の指令を出しているのか?

 なによりも福島では、原子炉の管理者のカオが見えない。何をしていたのかもどこにいたのかもわからない。その管理者が、震災の直後にことの優先順位を間違えた、それが始まりである。ひょっとして、東京ではないのか?

 と、大学の山仲間の先輩から「あまりアツくなるな。これが日本の実力と思っている」というメールがきた。工学部出で、長年海外で石油プラントなどの立ち上げをやっていた人だ。

 のっけに「原子力発電所に高架水槽が無いとは知らなかった。勿論地震で原子炉より先に潰れたかもしれないが」という。いつもどこまで冗談かわからない話が面白い人なのだが、これには「エッ?」と思った。なるほど、倒れさえしなければ、ジーゼル発電や消防の放水よりはるかに簡単・確実だ。

 50年前の卒論が「放射性廃棄物の処理」だったとかで、関心は「何時まで経っても完成しないむつ小川原」の方で、「未使用のままスクラップになりそうだ」という。

 そして曰く「研究、実験、Project Execution/ Management各分野、歴代の責任者とその業績・年俸、今までに投入した資金(税金と民間投資合計)、今後の予算をしっかり、しつこく報道して欲しい」と。おまけに「刑法では問えぬが」とただならぬ但し書き。

 しかしこれ、そのまま福島原発にも、これから当てはまることではないのか。こちらは、刑法適用だってありえなくはない。

 メールはさらに、「人間の力は自然の力に及ばないことを、謙虚に認める勇気が必要。地震・津波だけではない。原子も自然の一部」「原子力発電所に、どれだけ何を備えなければならないか? 不毛の理論だ。なぜ人間に大事な心臓や脳が一つしかなく、肺・腎臓は二つあるのか?」と問いかける。

 そして最後に、「我が余生も長くて10年ほど。もう一度、人様のお役に立ちたい」という。何のことかと思ったら。「この年齢になると、残念ながら遺伝上の変異を恐れる理由はない。もし、年寄りで低レベルの放射能をさほど恐れぬVolunteerを募っているNPOあれば 教えて下さい。当方 英語excellent、Plant建設、Project Managementに詳しい、と華麗なる履歴書を作り上げます」なんて書いてある。

 相変わらず、どこまで本気か冗談かわからないのだが、いえるのは、もしこういう人物が1人でも中枢にいたら、福島原発もああはならなかったということだ。長年真摯にモノ作りを続けてきた技術者の視線の確かさ、ごく当たり前のバランス感覚が、なんとも気持ちがいい。

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