2011年4月2日土曜日

週刊誌に遅れをとった?


 読みたかった記事は週刊誌にあった。週間ダイヤモンド4月2日号が、福島原発事故での東電の初動の混乱ぶりを伝えていた。前の日記に「原発の顔が見えない」と書いたのだが、その理由もちゃんと書いてあった。

 津波で電源が失われ、冷却ができずに1号機の炉内圧力が高まったとき、水蒸気を逃がす(ベント)必要をいう現地責任者に対し、東京の本店は消極的だった。政府が現地と連絡をとろうとしても、本店経由でしかできない。菅首相が12日朝ヘリで福島へ飛んだのは、「ベントしろ」といいにいったのだという。ベントは行われたが、直後に水素爆発が起きた。

 14日に2号機で「空焚き」が起こったとき、東電は政府に「全員撤退したい」といってきた。政府は驚いた。現地に連絡すると、必死の作業で「水を入れた」というのだが、東京は発表しない。そこで翌未明、菅首相が本店に乗り込んだ。

 「腹をくくれ」「撤退したら終わりだ」と怒鳴り声が部屋の外まで聞こえたという、すでに伝えられた話と、ここでつながる。だが、新聞は「首相が怒ってはいけない」とか、「ヘリで飛んだのが対応を送らせた」とか。ついには国会でも取り上げられたが、話はずいぶんと違う。

 以上はいずれも、政府関係者の話となっている。だが、官邸周辺なら一般紙の記者がいくらでもいる。なのにこういう話が出てこないのは、とっかかりが違うのだろう。おそらく東芝筋である。

 記事によると、東芝は地震の直後から技術者がスタンバイしていた。東電の本店にも詰めていたのだが、廊下にいて部屋にも入れてもらえなかった。東芝首脳は「最も原発を知っているのは技術者、専門家だ。もっと早く手を打てたはずだ」といったという。

 実質原発を動かしているのはメーカーだ。水が切れたらどうなるかを、いちばんわかっていたのも彼らである。だが、本店は鈍感だった。齟齬は本店と現地との間にもあった。現地責任者は吉田昌郎・発電所長(執行役員)。その判断が事態を好転させたと、政府も東電内部でもいっているらしい。

 外部電源引き込みの配線作業は、自衛隊の放水のさなかだった。危険だと、放水中止をいう本店に対して、所長は「やる」と判断、結果的に成功した。このとき現場でも本店でも拍手が起きたそうだ。「彼がいなかったら、パニックになっていただろう」

 こうしてみると、新聞やテレビの報道は、記者会見のワクを出ていない。東電の裏に切り込むすべを知らない、というよりやろうともしないのではないかと疑いたくなる。本音を聞き出せるソースをもった、経済部記者の1人や2人いなかったのか。日刊紙が週刊誌に遅れをとるとは‥‥。

 報道のアナはまだあった。500人からいるという原発作業員の実態が見えないのも、腑に落ちないことだった。読売新聞が、日に2食で、大部屋でごろ寝をしながら、がんばっていると伝えた。「おい、明治時代じゃあるまいし」と、「原発哀史?」と書いたら、友人から文句のメールが来た。

 書き方が悪かったのか、彼らを馬鹿にしたように読めたらしい。一方で、小名浜港につけた海王丸が、作業員の入浴や休養施設になっているというのもあった。それでこそ当たり前だろう。ホテルを借り切ってもいいくらいだ。取材する方もされる方も、要はどこまで人間を見ているか、である。

 だが、作業の実態に踏み込んだ報道はなかった。と、TBS朝のワイド「朝ズバッ」に、元東電の社員というのが出てきた。彼は、「防護服というが、あれはナイロンの薄っぺらなもので、放射線を防ぐ機能はない」という。マスクをして手足を密閉しているのは、浮遊している放射性物質をとりこまないためだと。

 つまり、吸い込みによる体内被曝は避けられるが、放射線はそのまま受けている。線量計をつけるのはそのためで、警報がなったら退避する。しかし、被曝量は積算されるから、年間被曝量に達したら現場にはもう入れない。「今回のように汚染度が高いと、ベテランが次々に現場に入れなくなっている」と聞いて、初めて合点がいった。

 交代で短時間の作業をつなぐにしても、高濃度汚染の中ではますます作業時間が短くなる。働けない人もどんどん増える‥‥それは過酷だ。いい方は悪いが、被曝と引き換えに給料をもらっているようなものである。

 おまけに線量計が不足で、グループにひとつで作業しているなんて報道もあった。とくに地元の作業員に選択肢は少ない。多くは震災の被災者でもあり、家族は避難所暮らしだろう。いかに非常事態とはいえ、現代の「哀史」といいたくもなる。

 彼らなしでは原発もまた成り立たない。それが原発というものだと、今回初めてわかった。青い海と緑の芝生に囲まれた清潔な原子炉の建屋が並ぶ、あの「絶対に安全です」というPRパンフレットは、いったい何なのか。新聞は何を見てきたのか。

 元原発作業員という人たちの声が断片的にテレビに出る。茨城だったり埼玉だったり、避難所からだ。津波のあと、自分の判断で原発から退避した人たちである。「戻るべきか」と揺れながら、福島の動きをじっと注視している。

 その人間ドラマをもっと読みたい。東電の本当の顔も見たい。いまの事態が延々と続けば、人手は際限なく必要だ。作業員たちの終わらない日々を見届けたい。これに応えてくれるメディアは、はたしてあるのだろうか。

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