2011年4月7日木曜日

写っちゃった映像


 車で逃げた人の多くが、渋滞のために津波に巻き込まれた、という記事がいろいろ出ている。津波では車で逃げてはいけないと。なにをいまごろ。津波の直後に流れたテレビ映像に、飲み込まれるシーンは沢山あった。そのときの印象は少し違うものだった。

 圧巻はNHKの映像だった。ヘリが仙台空港を飛び立ってすぐだったのか、名取市を襲った津波の先端をつかまえた。あたりは一面平坦な畑である。土や芥を巻き込んで真っ黒になった津波の先端が、生き物のように広がって行く。きれいに整った畑を、ビニールハウスを、家々を、車を飲み込んでいく。

 何か燃えているがれきを抱え込んだまま。海から運んできた漁船が家と並んで流れていくという奇妙。そして、津波の先端は、まだそれと知らずに道路を走っている車を何台も飲み込んだ。その先の道路には、まだ走っている車が沢山いた‥‥。

 ところがカメラマンには、最大のドラマが見えていなかった。広い画面の右端の遠くに写っていたのだが、カメラは左の方へ、津波の本流の渦へと向かってしまう。おいおい、あの車を見せろ‥‥。

 多分、同じカメラだろうが、この少し後で、迫り来る津波を見たドライバーが争って農道へ逃げる場面があった。しかし農道は狭い。最後の一台は立往生したまま飲み込まれた。これも画面の隅っこだった。

 カメラは気づかずに津波の舌の先を追う。と、農道の先が行き止まりで、先行した4、5台が立往生していた。後ろから津波が迫る。あわや、というときに、映像は切れてしまった。これも見えていなかったのだ。もしズームアップしていたら、「100年に一度」の絵になっただろう。最初に飲み込まれた車だって、そうだ。

 災害や事件の現場映像で、しばしばお目にかかるドジである。しかし広い画面には何でも「写っちゃっている」ために、放送を見ている方が「アーッ」という。どんなときでも必ずある。テレビカメラのファインダーではよく見えないのかもしれない。しかし、走っている車には人が乗っているーー何より肝心な視点が欠落していたのである。

 中継映像は同時に東京も見ていたはずだ。もしデスクが「流されていく車を追え」といっていたら、悲惨な光景になったか、高台にうちあげられて助かったかーー事実、多くの人が奇跡的に助かっている。だが、その現場映像というのはひとつもなかった。

 むろんこちらはただの視聴者だから、見ている映像は断片(しかも画面の隅の方)にすぎないが、それでも、車で走っている人たちの危うさは十分に読み取れた。むしろ、車の半分くらいは、津波のツの字も知らずにのんびり走っているように見えた。

 地震のあと、多くが家族のもとへ走る途中に巻き込まれた。しかし、ラジオも聞かず、音楽でも聞いていればそれっきりだ。かくて道路の上りも下りも同じように、おそらくいつものように車は走っていた。いったいどれほどの車が、そうして飲み込まれたことか。

 視聴者が撮った映像で、向こうから津波が迫ってくるなかを、逃げるように去っていく車があった。と、すれ違って津波の方へ行く車が一台。見ていて「アッ」と思った。運転手からは家並みの向こうの津波は見えていない。だが、これを流していた番組のキャスターが、これに触れることはなかった。これまた、全然見ていないのである。

 家が飲み込まれて行く光景はいたるところでとらえられていた。撮ったカメラマンたちは、あのなかにまだ人がいるかもしれないと思っていただろうか。かなりの人が逃げていなかったことは、行方不明の数字が示している。

 ヘリからの実況も相変わらずひどかった。おそらく、ヘリに乗るのは新米記者で、大方画面でわかることしかいわない。「画面を見ればわかるよ」と、これは毎度のことである。

 現場ルポは本来、画面に写っていないことをしゃべるもの、場合によっては、カメラに指図しないといけない。なにしろファインダーでは見えていないのだから。「ヘリの中継はこうやるんだ」というのを見せてやりたくなるというのも、思えば悲しいものである。

 あらためて、テレビは映像の力を十分に生かしているのか、といいたくなる。映像は命といいながら、単に時間つなぎ、ニュースやトークの場所映像、バックの賑やかしに費やしてはいないか。だから「写っちゃった」映像でもいいというのか。

 さらに感ずるのは、編集する側もまた、映像を見ていないことだ。現代の映像機器は、一昔前には思いも及ばなかった機能を満載している。逆にいえば、バカでも押せば写る機械でもある。

 そうして「写っちゃった映像」でも、結果は完璧で、実に沢山の中身をもっているものである。記者やカメラマンにはわからなくても、わかる視聴者は多いはず。だからこそ、今回のような未曾有の事態では、どんな断片でも貴重なのだ。そうした映像を粗雑に扱っているのを見ると、心底腹が立つ。

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