2011年4月22日金曜日

いささか鈍感すぎないか?


 テレ朝の「モーニングバード」が、福島第1原発の作業員の様子を写した写真を流した。同原発の産業医である谷川武・愛媛大大学院教授が提供したもので、作業員たちの過酷な実態を見せつけた。

 作業員の様子は、これまで一部報道で「日に2食」などと断片的に伝えられたが、突っ込みが足らず詳細は不明のままだった。ところがこの写真には、広い板敷きに敷物を敷いて、防護服を着たまま休憩する姿が写っていた。まるで被災地の避難所そのままである。

 寝る時も防護服のままだといい、各人に寝袋があった。食事は日に2回から3回にはなったが、相変わらずレトルト食品、缶詰、カップ麺が主だという。別の写真では、机の上に食品が入った段ボールが並び、アップのカットでは「ナポリタン」「やきとり」などのラベルがみえる。防護服を脱いでもマスクをつけたままの姿もあった。ひどいものだ。

 谷川教授によると、当初、睡眠不足や脱水症状で、多くの作業員が倒れたそうだ。教授はカメラの前で「いまの態勢のまま維持するのは困難だ。これから気をつけないといけないのは、慢性的なストレスです。あのような作業の中では風呂は必需品です。早急に仮設の風呂を作るべきだと思います」と話した。

 ん? 風呂だけの問題じゃないだろう。ところがその先は映像がなく、ナレーションだけ。教授はさらに「作業員が十分な休養がとれるように、東電の本社はちゃんと支援すべきです」といっていたと。

 コメンテーターの東ちづるが、「作業員を特攻隊や決死隊にしちゃいけませんよ」といっていた。これが真っ当というものだ。ところが番組は、「しかし、現場はそうはいかないと」といって終わってしまった。どうやら、取材者は自分がつかんだネタの意味がわかっていなかったらしい。

 作業員の雇用そのものが、いかに被曝と引き換えだとはいえ、福島第1原発の今後は彼らにかかっている。先に出した「収束の工程表」を守れるかどうかも、実際に作業をする彼ら次第である。その労働条件を劣悪なままにしている。これがわからない。

 外部に宿舎を確保して、人員と食料のピストン輸送をすればすむことだ。そんな費用は、何百人とかかえる天下りの給料からみたら、微々たるものだろうに。とてもまともな企業のやることとは思えない。

 作業員が線量計をつけているのは、放射線量を積算するためだ。それが年間被曝量に達したら、もうその作業員は、汚染地域には入れない。だから次から次と新しい作業員を確保しないといけない。「工程表」では向こう9ヶ月、先にいくほど放射線量の多い作業になるはずだ。おまけに、その工程表自体がきわめて怪しい。

 18日に公表されたロボットの映像で、これからの作業が容易ならざるものであることがわかった。なかで気になったのが、3号機だ。ロボットが入った反対側の入り口の扉が爆発で開いたままになっていることがわかった。この入り口は車が入れる大きさで、外光が見えていたから、外からでも開いていることは見えたはずだ。それが今回初めてわかったと。

 これまで建物の破れ目からのぞき込むことすらしていなかったということだ。こうした疑いは、当初からあった。最初に3、4号機の状況を撮った写真は、離れたところから恐る恐る撮ったような絵だった。覚えていよう。これらに近寄った最初の映像は、放水した東京消防庁が撮ったものだった。

 このとき抱いたイメージは、離れた安全なところにこもって、防護服の作業員に指示を出している幹部の姿である。しかし、その指示の中身が見えてこない。2号機地下の高濃度汚染水の存在は、作業員が被曝して初めてわかった。彼らは何をしていたのか。

 1ヶ月たって、津波による被害状況が発表された。しかしそんなものは、多人数で分担して調べれば、翌日にでもわかったことではないのか。なにしろ、常時何百人という作業員がいる。彼らが毎日何をしているのかが見えない。

 かくもおぼつかない現状把握をもとに作られた「工程表」とは何なのか? まして、実働部隊である作業員への「支援が不十分」と産業医がいっている状態だ。もし使い捨てのつもりだとしたら、新たな補充にいずれ行き詰まるだろう。

 いま彼らがどこにいるのかは、テレビでははっきりしなかった。しかし、産業医のデスクらしいものが写っている写真もあったから、おそらくは「耐震棟」といわれる建物である。作業の指揮をとっている東電やメーカーのスタッフもいるはずだ。彼らもまた、防護服をつけ、レトルト食品を食べ、風呂にも入らず働いているのだろうか。そうではあるまい。

 こうした事情は一切公表されていない。国会での論議にもなっていない。東電が出してくるデータをはいはいと受け取るだけに見える。政府もメデォアもいささか鈍感すぎないか。

 谷川教授の話は、東電がもっとも知られたくなかった事柄のひとつだろう。テレ朝の目のつけどころはよかった。だが、教授は産業医をはずされるかもしれない。東電ならやりかねない。

 だからこの件は、なおフォローし続ける必要がある。それが、原発全体の先行き、ひいてはわれわれの明日に関わるからである。

0 件のコメント:

コメントを投稿