2011年2月28日月曜日

世論調査の落とし穴


 「菅内閣支持率最低20%」「早く辞任を49%」——これが2月21日付けの朝日1面トップの見出しである。全国定例世論調査(19、20日電話)の結果で、まさに政権末期の様相を表していた。

 記事にも、「不支持62%で最高」「『早くやめてほしい』49%が『続けてほしい』30%を上回った」とある。まあ、現状からすればそんなものだろう。他のメディアの調査ではもっと悪い数字も出ていた。全体の傾向が一致していれば、間違いはないということだ。

 ただ、本文を読み進んで、質問でひっかかった。「菅さんに首相を続けてほしいか、早くやめてほしいか」との質問では‥‥とある。はて、こんな聞き方をされたらなんと答えるか。私でも考え込むだろう。まして一般有権者である。むりやりシロかクロかを、いやクロといわせてはいまいか。

 この調査レポートには、質問の文言と回答の数字を並べた一覧がなかった。世論調査ではこの一覧はきわめて重要で、とりわけ質問の言葉をじっくり読むと、調査の意図、想定している結果までをも読みとれることがある。

 むろん、それがわかるようでは調査としてはお粗末で、テレビには答えを誘導しているようなものもあるし、新聞でもキャンペーン関連などでは手前味噌があったりする。しかし、いやしくも内閣支持率である。そうした意図が出ないように、言葉選びには気を配るものではなかったか。

 ひっかかる質問はまだあって、「今後も民主党を中心にした政権が続いた方がよいか」と聞いて、「続いた方がよい」が前回よりダウンしたとあった。多くの有権者はろくに考えてもいないことに、むりやり答えを迫れば、質問自体が十分に否定的なのである。下がって当然だろう。

 調査は他に、解散の時期や小沢問題も聞いているから、その時々のトピックスを織り込むのは当然だとしても、最初の2つの質問は、あまりにも短兵急だ。しかも「早くやめて」と聞いたあとで、「やめたあとどうなると思うか」を聞いているわけでもない。

 つまり、無責任な答えでも何でも数字さえ出ればいい、と思われても仕方がなかろう。他の調査の詳細は知らない。が、調査のやり方はどこも同じ、有権者も同じだから、質問が意図的ならば、数字はさらに下がる。内閣支持率を、これらの質問の前で聞くかあとで聞くかでも違ってくる。だから、質問の一覧は必要なのである。

 いまや内閣支持率はすっかり日常化して、テレビのバラエティーでも出てくる。で、これを枕に「民主党の内紛」だの「統治能力」だのと話を展開する。新聞にもいい話なんか出てこない。そうした末に世論調査をやって、「また下がった」の繰り返し。ある意味自作自演ではないのかといいたくなるほどだ。

 しばらく前の朝日が、「地方議会はいらない?」というアンケートをやった。全国1797の自治体の議会に回答を求め、地方議会の驚くべき実態を浮き彫りにした、久々に見る全国紙ならではの、痛快な調査報道だった。

 例えば、この4年間で、首長提案「丸のみ」議会が50%、議員提案ゼロの「無提案」議会が91%、議員の賛否「非公開」議会が84%、いずれにもあてはまる「3ない」議会が3分の1‥‥などなど、地方自治とは名ばかりの実態がぞろりと並んだ。

 このアンケートは、回収率100%というのが目をひいた。珍しいことだ。「ははあ、議会事務局だけは真面目だったんだ」と思ったのだが、違った。しばらくあとに論説委員が裏話を書いていた。

 それによると、小さな自治体の回収率が悪いので、事務局に電話をかけたのだが反応はさっぱり。そこで議長に直接電話をかけ、「各地の議会批判が気にならないか」などと圧力をかけて、ようやくそろったというのだった。アンケート発送から30日だったという。

 あらためて思う。日本の民主主義は、こんなレベルなのである。国会議員といえども、選挙となれば地方選挙の票が土台だ。地方の意識が国会を支えている。近年、選挙については情勢がつかまえにくくなった。世論調査が浮動票を読み切れないからだ。しかし選挙以外では、世論調査はいぜんとして、民意をすくい上げる最良の手段である。

 だからこそ、慎重の上にも慎重であるべきなのだ。上の調査に話を戻すと、菅内閣が「続けるべし」「やめろ」との答えそれぞれに、「なぜか」と、いくつかの選択肢を示すべきだろう。そこではじめて、全体状況に目をやる有権者は多いはずだ。

 それによって、たとえとっさの判断でも、自分の答えを反すうすることになろう。それがより正しい民意になるのではないだろうか。そう考えると、先の設問はあまりにも乱暴だ。調査担当者までが、菅内閣を見限っているかのようである。

 どんな出し方であれ、いったん出た数字は一人歩きを始める。とくに内閣支持率は、ときに生臭い政局を左右する。そんなことは、担当者は百も承知。釈迦に説法ではあろうが、くれぐれも慣れは禁物である。

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