2011年2月11日金曜日

横綱のリテラシー


 大相撲の八百長問題で、横綱白鵬のコメントが波紋を投げている。「自身の八百長関与や見たり聞いたりしたことは?」との問いに、ニヤッと笑って、「ないということしか言えないじゃないですか」といったのだ。

 9日朝、八百長が表沙汰になってから初めての会見だった。が、これで「横綱は見聞きしていた」と断定するところはなかった。どう解釈していいか、とまどっているのがありあり。

 テレビはどこも、この問いと答えだけを流していたから、ニヤッという苦笑いも含めて、「みなさん、わかってるでしょう」という感じに見えた。「横綱自身」と聞けば、「ない」と答えただろうが、「見たり聞いたり」が入れば、「ない」とはいい切れまい。しかし、横綱として言うわけにはいかない。

 新聞はみな、答えが見出しになっていたが、記事のニュアンスは少しづつ違った。「語気を強めた」(朝日)、「歯切れが悪い」(毎日)、「言葉が噛み合ない場面があった」(共同)、読売は、放駒理事長やら協会幹部のコメントをつけた。理事長は「認めた力士がいるんだから」。特別委員会の委員は「言葉のハンデがあるから」

 確かにやり取りはかみあわなかったようで、「単語がわからないようで」とか「質問と答えがチグハグな場面が続いた」というのもあった。が、スポーツ紙は一問一答を載せてもいた。これを読むとかなりはっきりする。テレビのつまみ食いの危うさもわかった。

 以下は、日刊スポーツの一問一答(八百長部分の抜粋)である。
——八百長を見たり聞いたりしたことは?
白鵬 協会が一丸となって相撲があり、私自身もある。力士会で引き締めて、また精進していかないといけない。
——八百長、無気力相撲が問題となっているが‥‥
白鵬 無気力相撲と八百長を一緒にしてはいけない。体調不良もあるし、(関与した)力士自身の問題でもある。何とも言えない。
——アンケートには何と書いた?
白鵬 1人1人の考え方がある。一生懸命やっている力士に対して失礼だと思う。これから入ってくる若い力士もたくさんいる。
——繰り返すが自身の八百長関与や見聞きしたことは?
白鵬 ないということしか言えないじゃないですか

 多少テニオハを整えたりはあるのだろうが、なんとも立派な日本語である。とくに最初のやり取りは、見事なはぐらかしであって、国会議員でも通用しそうだ。これだけのことをいえる日本人がどれだけいるか。しかし、記者たちはチグハグととったらしい。

 3回も形を変えて同じ質問をぶつけられ、4回目にニヤッと笑ったのである。通して読めば、彼が完全に質問を理解し、十分に考えて答えを出しているのは明らかだ。

 しかも、最後にまだ「八百長をした力士を許せないか」と聞いた記者に、「どこのテレビですか」と聞いて、無言で立ち去っている。あきれたものである。リテラシーを問われているのは、記者の方ではないか。

 これが報じられた朝のワイド「朝ズバッ」(TBS)が、例の大麻で追放になったロシア人力士の元若の鵬の映像を流した。「八百長で金をもらった。先輩に、長く相撲やりたかったら、みなと一緒にやれといわれた」などと語っていた。

 たしかに彼は追放になったとき、「八百長」の話もしていた。そのときは、いわば「ひかれ者の小唄」で、だれも耳を傾けなかったのだが、今となってみると、ズバリ核心かもしれないではないか。

 ところが、相撲ジャーナリストの杉山邦博が、「大麻で追放された人の話なんか聞きたくない」という。さすがのみのもんたも絶句したが、やおら「でもまだ出てくるでしょう」というのに、「過去をむしかえしても不毛だ。前へ進まない」だと。

 びっくりした。まるで自分たちは関係ないといわんばかり。そのくせ、「ウミを出し切って‥‥」なんていってるんだから、あきれる。みんな口まで出かかってるんですよ。「あなた方、相撲記者だって、薄々気づいていたでしょうに」と。

 もし気づいていなかったとしたら、よほどのノーテンキだし、いざ「知っていたんでしょう?」と聞かれたときに、ニヤッと笑って「ないということしか言えないじゃないですか」と答えられるかな? リテラシーを問われてるのは、横綱だけじゃない。

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