2011年2月19日土曜日

そのセリフ、どこかで聞いたような


 民主党がようやく小沢一郎氏の処分を決めたと思ったら、小沢チルドレン16人が会派離脱ときたもんだ。小沢氏も黙認していたというから、事実上倒閣運動の黒幕といっていい。鳩山前首相も「菅が民主党をめちゃめちゃにした」といってるとか。まったくいい気なもんだ。そんなことやってるときかよ。

 16人の離脱はルール上筋が通らないから、党は認めていないが、党が割れるかという事態は間違いない。ところが、本来なら勢いづくはずの野党の反応がいまひとつ。理由は、彼らの「小沢印」にあると産経が書いていた。「小沢さんが壊しムードにはいったかな」という声もある。

 とにかく菅首相の動きが鈍かった。官邸に小沢氏を呼ぶまでがうじうじ、離党勧告を蹴飛ばされてもうじうじ。そして出した処分が「裁判終了まで党員資格停止」という生温いものだった。辛口のメディアまでが、「早くしろ」といい始めていたほどだ。

 そのメディアの小沢報道もさすがに少し変わって、強制起訴後は素っ気なくなっていた。ところが小沢氏が妙にいい顔をした映像が、しきりにテレビに出る。なんだろうと思ったら、例の「ニコニコ動画」の会見だった。

 記者クラブ制度を目の敵にしているフリーのジャーナリストたち「自由報道協会」(仮)が設定したもので、新聞、テレビの記者が参加するには、記者クラブ自由化への賛同を迫られるのだそうだ。

 ここで小沢氏は、記者クラブを「いくら説明してもわかってくれない。報道もしてくれない」と大いに批判。主催者がまた「政局の質問はなし」としたために、嫌な質問も少なく、逆に、協会の記者がクラブを攻撃したりして、小沢氏も居心地が良かったらしい。

 起訴後の10日にも開かれて、こんどは「質問なし」「主催者がわかる形での報道」を条件にしたため、参加を見送った新聞もあったとか。小沢氏はまたまたいい気分でしゃべったという。

 これを見て、古い記者たちは既視感を抱いたに違いない。「わかってくれない」「言った通りに報道しない」は、「自民党幹事長・小沢一郎」のセリフである。手練手管の剛腕だし、身ぎれいではない印象があったから、彼の記事には多く解説がつく。それが気に入らないのだ。

 質問されるのが嫌い。言ったことだけ書け。余分なことを書く記者とは会見しない。これが小沢流だ。だから、永田町の記者たちとはいつもけんか腰だった。人相が悪いうえに仏頂面の写真ばかり。それでも通用したのは、彼が権力の中枢にいたからである。

 逆に、事情にうとく嫌な質問をしない外国メディアには、喜んで会う。記者たちはこれでまた、カチンときたものだった。時代が変わって、彼はネットという素晴らしいものを見つけたわけだ。質問は自制している。テレビだから、しゃべりはそのまま流れる。いい顔になるわけである。

 ひところ、小沢待望論を尻押ししていた若い小沢番記者たちは、自民幹事長時代を知らない。しかし、こうまであからさまに閉め出されては、さすがに思うところがあるのではないか。また、そろそろ気がついてもいいころである。

 小沢氏は、昔と何ら変わってはいないのだ。“黄門サマ”渡部恒三氏に聞いてみるがいい。「嫌なところへは行かない、嫌なヤツには会わないんだ」と教えてくれるだろう。いや、それだけじゃない。政治的なスタンス、ドブ板選挙、数の論理、金銭感覚、なーんにも変わっちゃいない。

 2大政党制(小選挙区制)を最初にいい出したのは小沢氏だったが、自民党にとって代わるまでに雌伏10何年。政権をとるやいなや、剛腕・小沢が復活していた。それが民主党のイメージを壊していたのだったが、若い政治記者たちには、違って映った。記憶がないというのは怖いものだ。

 フリーの記者たちにしても、こんな“蜜月”がいつまでも続くとは思っていまい。彼らもいずれは質問を始めるだろう。いい話より悪い話の方が多い人だ。いずれはぶつかる。そこで彼の本性が見えるはずである。すでに、きわどい質問には露骨に嫌な顔をしていたというから、まあ、時間の問題ではあろう。

 それよりも、民主党がすったもんだしているうちに、2大政党制の足元が揺さぶられているのは皮肉である。名古屋のトリプル選挙では、既成政党が吹っ飛んだ。政治家もメディアも結果を読めない中、有権者の方がさっさと答えを出してしまった。

 これが統一地方選や次の国政選挙にどう響いてくるか。民主党がどうなるか。決着がついたとき、誰の見通しが正しかったかは、興味あるクイズだ。結局国民の方が、嗅覚を働かすのではないか。本当に国民のために動く人間を探り当てるような気がする。

 パソコンに例えれば、国政を動かしているソフトは、ウインドウズ95あたりか。小沢氏のそれはもっと古いMS-DOSだろう。政権交代を体感した有権者のOSは、とっくにXになっている。

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