2011年5月12日木曜日

原発写真がないとは


 有楽町の朝日ギャラリーで、「東日本大震災・報道写真展」を見た。テレビの動く絵とは違う、一瞬を切り取った悲劇や人間ドラマの迫力はさすが。スチルにはスチルの良さがある。

 連休中だったが大変な人で、声援のカードの花が沢山並んでいた。会場の中程に置かれたテーブルには、震災から1週間分の新聞が置いてあって、感想ノートがあった。のぞいてみると福島から首都圏に避難してきた人の「原発は人災です」なんてのもあった。

 だが、会場を一巡して出口に向かったところで、「エッ」となった。福島原発の写真がないではないか。見事に1枚もない。周辺市町村の写真もない。朝日の写真展だから、自前の写真は撮っていないということだ。テーブルの上の紙面は13日から18日の朝刊まで、朝夕刊ずっと原発が一面トップだというのに。

 政府は最初の爆発後、航空法で「原発上空飛行禁止」の網をかけた。旅客機も外気を吸い込む、との理由だ。しかし、報道用は目的が違う。また、同心円で20キロ、30キロ圏内は、避難、待機など立ち入りが制限されたが、これも住民の健康のためであって、報道は埒外のはず。

 メディアに取材する意志があれば、安全は、記者、操縦士とメディアが考えることだ。政府がとやかくいうことではない。にもかかわらず、原発や規制区域内の写真もなければナマの記事もなかった。ということは、メディアの意思であろう。

 知り合いに聞いてみると、これは朝日だけではなかった。放射能汚染地域への立ち入りを、新聞・テレビ各社とも業務命令で禁じていた。では何を拠り所に? それが、どうやら政府の規制――航空法と同心円なのであった。なんということだ。

 これまでにも、たとえばベトナム戦争でのサイゴン陥落、イラク戦争の米軍の攻撃では、その直前に新聞・テレビ各社とも記者を退避させている。今回も、考え方としてはそれと同じだという。たしかに、いたずらに記者の身を危険にさらす必要はない。記者が残るといっても、ダメだという判断はありうる。首脳陣の責任もあろうし、組合との問題もある。

 だが、今回は戦場ではない。放射線が相手だ。線量計でわかるのだから、危なければ退避すればいい。なによりも、規制区域の中でもまだ一部住民が生活していた。牛のエサやり・搾乳に、避難所から通う人もあった。福島原発では現に人が働いているのだ。

 放置されて餓死した牛や豚、町をさまよう牛やイヌの姿は、この災害でもある意味もっとも悲惨なものだったが、それを伝えたのは、動物愛護団体のボランティアやフリーのカメラマンである。そして、防護服の警察官が原発近接地区の遺体捜索を始め、警察庁長官も防護服で視察したが、入ったメディアは限られた。

 そしてつい先頃、民間シンクタンク独立総研の青山繁晴氏が、防護服で第1原発に入り現状を初めて伝えた。おそらくはデジカメによる不鮮明な動画だったが、内容は衝撃的だった。

 津波の被害は想像をはるかに超えていた。巨大なクレーンが倒れ、トレーラーが逆立ち、建物の骨組みも配管の類いもグチャグチャ、一面がれきの山だ。もう、発電所の体をなしていない。

 指揮所になっている免震重要棟の入り口は二重の扉で、同時に開かないように防護服の2人が立つ。出かける作業員たちと行き交う。入ると汚染されたものを脱ぎ、除染する。2階は緊急時対策本部で、24時間態勢。原発の指揮官吉田昌郎所長の姿も初めてみた。

 東電はこうした一切を公表しない。もう梁山泊か関東軍である。発表は、原子炉の状態、給水の方策、汚染水の処理‥‥そんな話ばかり。全容を公表しないために、どれだけムダな時間と労力が費やされたことか。ひとつの例が放水だ。

 自衛隊や東京消防庁が必死の放水作業をしているとき、建設業界の人たちは「コンクリートポンプ車があるのに」と思いながらニュースを見ていたという。いま3、4号機に張り付いているのがそれで、四日市の建設会社がわざわざ申し出て提供したものだが、話が通るまでに5日もかかっている。

 こんな中でこそメディアの役割がある。放射線量が下がったところで海側からヘリを飛ばせば、近接しなくても発電所の現状がわかる。容易ならざる事態であることは一目瞭然だ。40日以上もそれを知らなかった、伝えられなかったとはーーメディアとして恥ずべきであろう。

 かつて朝日は、チェルノブイリの放射線量がまだ高いときに、あえて突っ込んで、すばらしい写真ルポをやった。あれに較べれば、今回の汚染はとるに足らない。

 8日、原発から4.5キロ地点に入った岡田幹事長に、一部テレビが同行した。幹事長は完全防護姿で、20キロ圏内の南相馬市の工場でもフードとマスクはしていた。が、説明する市長も社長も顔を丸出しだった。幹事長とメディアに誇示してるようにも見えた。このとき記者とカメラも顔をさらしていただろうか。

 毎日新聞は先頃、写真部長が汚染地域に踏み込んだと聞く。これで他社に動揺が走ったそうだ。現場に突っ込まなくても恥ずかしいと思わないようでは、メディアの名が泣く。

1 件のコメント:

  1. 原発の写真がないとは不思議な話ですね、無人の飛行なども飛ばしているのでもっと情報公開があってもいいのではと思うのですが原発のテレビでも数十キロ離れた場所からの中継ですがこれだけ色々な機器が発達した時代にしてはおかしな事ですね!!

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