2011年5月17日火曜日

「原子力は安い」はホントか?


 テレ朝の「モーニングバード」が面白い切り込みをやった。「原子力発電は安い」という「常識」で、日本のエネルギー政策は成り立っている。「それはホントか?」と検証を試みたのだ。

 ナビの玉川徹は、官の無駄遣いなどをしつこく追及してきた硬派のリポーターだが、今回もインタビューとデータをうまくパネルに組み立てて、説得力のあるお話を展開した。

 国や電力会社がいう数字は、電気事業連合会が出している発電コストの比較で、1kwh当たり原子力5.3円、火力6.2円、水力11,9円となっている。

 だが、これに異を唱える人はいた。まず京大原子炉実験所の小出裕章助教。原子力の専門家でありながら、原発に反対している。その理由を「原子力に夢を託してこの道に入ったが、事実に反する」。電事連の数字は、「通産省がモデルを作って出したイカサマ計算だ。原子力は安くない」という。

 独自にコスト計算をしたのが立命館大の大島堅一教授だ。政府の審議会は、発電所がいくら、何十年使う、燃料はいくらなどを仮定して、モデル計算をする。すると、原子力が一番安いと出る。

 しかし大島教授は「私のは、仮定ではなく実績をもとにした計算。国民が負担した費用はいくらだったか。それを得られた発電量で割った」という。40年間の実績(有価証券報告書)から割り出したら、水力7.08円、原子力8.64円、火力9.8円。原子力は2番目になった。

 教授はさらに、国民負担という観点から「税金負担分」をこれに加えた。原子力には税金が多く使われているので、「2円くらい高くなる」。すると、水力7.26円、火力9.9円、原子力10.68円で、とうとう一番高くなった。

 この税金というのが電源開発促進税で、1kwhにつき37.5銭。東電管内の一般家庭で、毎月約108円が上乗せ徴収されているのだという。これが何に使われたか、と玉川は例を2つあげた。「青森・六ヶ所村の文化交流プラザ」と「福井・敦賀市のきらめき温泉リラポート」で、交付金が31億円と24億円だと。たいそうなアメ玉だ。

 大島教授は「再処理をいれると高コスト事業なんです。国民の合意がえられるかどうかは微妙だ」という。そう、再処理はいまだに動き出していない。これまでいくら使われたか、この先どれだけかかるのか。アメリカと組んで、モンゴルへという話まで出ている。

 そして登場した自民党の河野太郎が面白かった。
 「通産省にバックデータを出せというと、黒塗りになったものを出してくる。これは何だというと、電力会社の企業秘密なので出せませんという。3月11日の後に請求しても同じだった」。この期に及んでも、経産省はなお、企業の問題だというのか。まったくひとつアナの何とやらだ。

 河野はさらに「都合が悪い数字なんでしょう。これまで原発を進めてきた経産省、電力会社、利権団体には。でなければ堂々と出すでしょう。(それを隠して)安いですよ、CO2は出しません、でやってきた。しかし歴代経産大臣は、資料を見ることができた。何をしてたのか」といっていた。その責任の大半は自民党にあるが、いま、海江田大臣はこれを見てどういうか。

 玉川は、「メディアの責任もある。ただ、信じてきたんだから」といって終わった。まさにその通り。こと原子力に関しては、メディアは電力会社の筋書きに従い、異論に耳を貸さなかった。安全性しかり。エネルギー政策での位置づけしかり。コスト計算もそうだったのか。

 その従順さはいまも続いている。東電が会見で出す状況説明や数字を素直に伝えるばかり。先週東電は、福島1-3号機のメルトダウンと、格納容器の底にアナがあいていることを認めた。すると「深刻な事態だ」と書く。

 だがそんなことは、ことの初めからさまざまなデータが示していたことだ。ただ、東電が「メルトダウン」という言葉を嫌っていただけのこと。最初の会見でこの言葉を使った原子力安全・保安院の担当者は、以後姿を消してしまった。誰かの逆鱗にふれたのだろう。

 しかも、1号機の建屋の地下に3000トンもの水がたまっていることがわかったと。ばかばかしい。ことは単純な引き算ではないか。これまで1万トンからの水を注入していながら、格納容器内の水位があがらない。それも何週間も続いているのだ。小学生だって「底が抜けてる」と答えるだろう。しかしメディアはこの間、これをつつき出すことすらしなかった。

 発端は、格納容器を水で満たして「水棺」にする作業だ。注水でいったん上がった内部の圧力がなぜか下がり始め、「酸素が流入する恐れ」から注水を止めた。理屈に合わない経緯だった。そのとき東電は、理由はわからないといった。わからないはずはあるまい。が、このときもメディアはその通り書いた。

 これとていま、小学生に聞いてみるがいい。「注水の途中で底が抜けたから」と明快に答えるだろう。本来想定していない水の重量に、格納容器下部の配管などが耐えられるものか‥‥「水棺」作戦がアナを開けた? 今回東電はこれに言及しなかった。メディアも書かない。気がついてもいない。

 原子力は専門家の世界。とりわけ放射能となると、測定結果と専門家の見解がすべてである。しかし人体への影響となると、まだ未知の分野なのだ。異論も多々ある。面白い見解もある。いつになったら、こうした話を読ませてくれるのだろうか。従順な羊たちよ‥‥。

0 件のコメント:

コメントを投稿