2011年1月12日水曜日

進化は退化?


 駅ホームからの転落事故が増えていると、朝日1面の記事。昨年の件数は過去最高になるかもしれない。転落の6割が酔客で、9月までで68件。前年を2割も上回るペースで、首都圏に多いのだと。

 で、事故防止の切り札が、ホームドア(可動式防護柵)だとして、社会面の方で、設置がすすまないという話がでかでかと出ていた。いわく「効果は際立っていて、ホームドアを設置したら転落事故はない」んだとある。当たり前だろう。

 ホームドアは新幹線から始まった。通過列車のある駅では、確かに必要だろう。スピードが違うのだから。それが、高齢者や障害者へのバリアフリーとして考えられるようになった。これはわからないでもない。

 しかし、実際に落っこちる人の半数以上(首都圏では8割)が酔っぱらいで、そのたかだか数十人だかの数字をあげて、だから整備を急げとなると、ちょっと待てよといいたくなる。かかる費用が、山手線だけでも500億円と聞くと、なおさらだ。

 汽車も電車も昔から走っていて、線路に落ちたら命にかかわるなんて、だれだって知っている。一方高齢者も障害者も酔っぱらいも必ずいて、時には落ちちゃうヤツもいる。これも昔から変わらない。わからないのが、事故件数が増えているという点だ。とくに酔客が。

 いまの酔っぱらいは、昔の酔っぱらいよりバカが多いのか? たとえそうだとしても、そんなものは自己責任だろうに。

 いま私は高齢者の範疇にはいって、時に足元がおぼつかなくなったが、ホームドアが必要だなどと感じたことはない。これからもないだろう。障害者や子ども連れにはむしろエレベーターが増えている方がいいはずだ。京王線では、車イスの乗客には駅員が付き添って乗車させ、降りる駅でも駅員が待ち受けている。これが本来ではないのか?

 例のライターの話を思い出してしまう。子どものライター遊びで火事が多いから、ライターに安全装置をつけろというやつだ。ライターも子どももいま始まったわけじゃない。マッチの時代はもっと危なかった。が、親たちがちゃんとそれを切り抜けてきたのだ。

 親がバカになったのを、安全装置にすりかえてすむ話か? そうじゃあるまい。これも、新聞、テレビがこぞって伝えていたが、その後どうなったか。経産省は安全基準とやらを作って、余分なコストで中小のライターメーカーをいじめて一件落着か。

 ガラパゴス化とは携帯電話のことだが、人間のバカさ加減を棚に上げて、別の形でおとしまえをつけるという日本独特のものはまだまだある。

 衝突事故を防ぐために、「ブレーキを踏まなくても止まる車」が話題だ。開発した方は得意満面のようだが、よく考えれば「そんなもの必要なやつは車に乗るなよ」といいたくなる。まあ、長距離トラックには必須かもしれないが。

 話は飛ぶが、ネパールではナマ水に気をつけろという。肝炎ウイルスである。相当高いところの清流でも危ない。若者がよくやられる。1980年だったか、現地の日本人医師に「いまのネパールの衛生状態は、日本の昭和10年代。あなたは12年生まれ? 大丈夫、免疫があります」といわれたことがある。水洗で育った年代は、免疫力がないのだそうだ。これは進歩なのか退歩なのか。

 いまや駅やファミレスにまである温水洗浄トイレも、外国人には出てこない発想らしい。使ってみれば便利だが、そのための電力と水はどうか。で、紙はやっぱり使うのである。どの先進国でも、そんなものを進歩だなどと考えない。ヨーロッパでは、いまだに車のトランスミッションは、マニュアルが主流である。ケチなのかもしれないが、それ以上に要らないものなのだ。

 身体だけではない。このところ、地震や台風、通り魔や理不尽な犯罪に巻き込まれた話になると、必ず「心のケア」というのが出てくる。そういう記事を読むたびに、被災した人には申しわけないが、人間がもろくなってるのか、と思ってしまう。

 私の年代でいうと、理不尽の最たるものは戦争だった。肉親が戦死する。空襲で罹災する。目の前で小学校が焼け落ち、振り返ればわが家も燃えていた。裏の家2軒は、防空壕を焼夷爆弾が直撃して一家全滅だった。しかし「心のケア」なんてだれもいわず、みななんとか折り合いをつけて生き抜いてきたのである。

 そこへまた経済短信に「脇見運転をどうやったら減らせるか?」という記事が出た。トヨタがデトロイトに「先進安全技術研究センター」を新設。「脇見運転を減らせるか」「子どものけがをどう減らすか」などを、大学や研究機関と協力して進めるのだと。投資額5年間で5000万ドル(42億円)。

 要は、人間の行動を分析して、コンピューターで指導が可能かどうかを探るのだそうだ。バカバカしい。2秒以上脇見をしたり、制御できないスピードになったら、天井からカナヅチがコーンと落ちてくればすむ話じゃないか。

 どう考えても、日本のガラパゴスは「人間の退化」に見えてしまうのだが、違いますかね?

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