2012年7月25日水曜日

オスプレイの「危ない」はどこから?


 米軍の新型輸送機オスプレイが、岩国に着いた。その映像を見ていると、畳んでいた主翼が回転して、ローターがするすると広がる。まるでガンダムか何か、映画でも見ているようだ。つくづく新時代の飛行機だなと思う。

 この問題、市民団体の「反対」はわからないでもないが、肝心のオスプレイが本当に「危険な」「落ちやすい」かどうか、これが一向に定かでない。メディアの論調も、どこか的がはずれているように見える。

 先頃朝日新聞が、「事故原因調査に空軍司令官が圧力」「事故の総数は58回だった」と立て続けに、裏話を引っ張り出した。

 最初の記事は、アフガニスタンでの事故に関する調査で、「エンジンの出力不足」とする調査委の見解を、空軍司令官が黙殺したという話。空軍司令官は「エンジン不調は事故とは無関係」とする公式報告書を作った。しかし、ここがアメリカだ。両論とも公表されて、「異例の対立」と注目されていた。

 米軍のマニュアルでは、機器に不具合があれば、ただちに飛行停止がかかる。実戦配備中の飛行停止は、もろに作戦に響く。司令官の配慮はむしろ、こっちの方だったろう。

 もうひとつは、これまで日本で知られていた事故件数が、事故の重大度でA、B、Cと三段階あるうちの、最も重大なAの4件だけで、B、Cも入れると58件だったという話である。これも実は公表された数字だった。

 Aだけとしていたのは日本の防衛省で、どうも意図的に安全を装っていたふしがある。こういうのを猿知恵という。担当者は、「B、Cまで取りあげたらきりがない」(朝日)というのだからあきれる。メディアもまた、防衛省の数字だけでワーワーいっていたわけだ。

 この問題で腑に落ちないのは、「危険だ」「事故が相次ぐ」という報道の割に事故件数が少ないことだった。これが4件ではなく58件だったとしても、5年間にアフガンでの実戦参加も含む数字で、年間12件弱。B、Cに死者はない。これで事故が多いといえるか? 「危険な」イメージは、どこから来たのか。

 根拠は例の「事故率」しかない。A事故だけの数字なぞあるはずがないから、これだけは全体の数字であろう。これでみると、海兵隊仕様のMV22は、ヘリより少し高いが全海兵隊機の平均事故率よりは低い。高いのは空軍仕様のCV22で、MV22の7倍にもなる。これがおそらく一人歩きしたのだろう。

 ネットにはパイロットの話があふれている。これらを読むと、確かに気難しい機体らしい。突発的な風やパイロットのささいな操縦ミスがコンピュータの制御機能を超えるとか。ローターの風圧が強力で、現行大型ヘリならフットボール場に6機の編隊着陸が可能だが、オスプレイは2機が限度だ、とか。

 面白いのは、「記者は知識がないから、上っ面だけを伝えている」なんてのもあった。アメリカでも似たようなものらしい。日本のメディアも判断できずに、「話が大きい方」に乗っている。「安全だ」といってるのは産経新聞だけだ。

 朝日の続報によると、米側がオスプレイ配備を日本政府に伝えたのは、まだ開発段階の96年で、以後米軍は繰り返し発信していたが、自民党政権は国会でも「聞いていない」と説明を避け続けた。試作段階では事故が大きく伝えられていたから、逃げたのだろう。

 政府が初めて「配備の可能性」に言及したのは政権交代後の2010年、北沢防衛相である。「官僚答弁をなぞりたくなかった」というから、つまりはこれも、防衛省の猿知恵だったのである。

 オスプレイの配備は、安保の事前協議の対象外で、防衛省が勝手に判断を差し挟む余地はない。政府にしても本来、オスプレイの安全を請け合う筋合いではなかろう。端から全部オープンにして、「米軍はこういっている」「安全対策は十分に申し入れる」とやっていれば済んだ話である。

 しかし、この間に高まってしまった不信感は、もはや消しようがない。新聞・テレビも、沖縄や岩国の現状を見れば、うかつには踏み込めない。山口県知事選では、争点のひとつになってしまった。もうだれも「イエス」とはいえない。猿知恵のツケである。

 米政府もさすがに困ったのだろう。急遽来日したカーター国防副長官は、「安全性が確認されるまでは飛行しないと合意した」とまでいった。野田首相も同じ言葉を口にした。米軍が正式採用して、あしかけ7年も実戦配備している機体に「安全性の確認」だぁ? 兵隊の命がかかっているのに? ばかな話ではないか。

 防衛省の調査団が訪米し、事故調査の結果も間もなく出る。これらをもとに、遠からず「安全だ」となるのだろうが、米軍にしても、冷徹な数字以外に頼るものはないはずだ。一方で森本防衛相は、訪米して、オスプレイに試乗するらしいが、そんなことで、どれだけの説得力があるか。カイワレダイコン食うのとは訳が違う。

 岩国到着の朝のテレビは、反対運動を伝えていた。それは現実だ。だがそれと並んで、20年前の試作機の墜落映像を繰り返し流していた。ガンダムはとっくに別ものになっているというのに。そんなだから、お祭りメディアといわれるのだ。まったく困ったものである。

1 件のコメント:

  1. 私の友人の元日航パイロット(ジェット旅客機・後に教官)に云わせると、一番緊張するのは離着陸の時だそうです。重い機体を如何にして空気と折り合いを付けるかに…。ヘリコプターは通常の飛行機機で云えば、主翼=ローターを回して浮力を得ている訳で、オスプレイは此の中間体の様なモノと考えられます。両翼端に付いている大きめのプロペラが、離陸の時はヘリコプターのローターとして機体を垂直浮上させ、所定の高度を得た後・ローターを立て乍ら水平飛行へ移行して行く訳ですが、45゜位の角度に成った時・揚力を得難く成り機体の制御が難しく成り、少しの横風・コントロールミスに因る事故が起き易いと思われます(飛行機の重量は、空中では空気を介して下の地面・海水面が支持します故)。
    10歳位からヘリコプターに興味を持ちゴム動力の機体を何機か造り、12歳で1.2mのローターを擁すエンジン付きフリーのヘリコプター(何れも二重反転)を造った・元飛行機少年の戯言と御思い下さい。

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