2012年7月12日木曜日

オスプレイは本当に危険なのか?



 米軍の新型輸送機オスプレイの配備問題で、朝日が論説で、森本防衛相に文句をつけていた。「話す相手を間違えている。米政府にこそ『待った』をかけるべきだ」と。それはその通りだろう。だが、オスプレイを「墜落事故が相次ぐ」「危険が大きい」とする論拠が、事故率にあった。 


 オスプレイの事故の件数や死者数は公開されている。その一覧を見ながら、はて、と首を傾げた。事故は確かにあるが、空白の(つまり無事故の)期間がけっこう長い。今年は2度事故があったが、その前は長いこと無事故だ。「本当に事故が多いのか」 


 不具合は当然改良されるのだから、試作段階と実用段階とは区別しないといけない。だがテレビには、20年も前の試作機の最初の墜落映像が繰り返し出る。これで云々されては、開発者もたまるまいが、世論は多分にこれでできている。 
  
 そこへNHKニュースが、軍事評論家小川和久氏のコメントを、都合のいいようにつまみ食いをして、朝日と同様の論旨を展開したらしい。これに小川氏がツイッターで抗議していた。それによると、小川氏の元のコメントは、次のような趣旨だった。 


 ・オスプレイは開発段階の16年間に4回墜落、死者30人(人数が多いのは輸送人員)。実戦配備開始から7年間に4回墜落、死者6人。実戦配備後は他の軍用機と比べて突出した数値ではないと米国内では理解されている。 


 ・現行のCH46ヘリは最終でも1971年製。整備や改修の限界を超えている。米軍は(たとえ話として)車のモデルチェンジと同様に配備を進めている。ただ、政府が住民の不安に応えるには、相当な覚悟で米国と協議する必要がある。 


 理路整然、真っ当な見解である。ところが、ニュースでは「モデルチェンジ」が強調され、政府への言及部分は使われず、安全についてはキャスターが否定していたという。小川氏は、ツイッターで「車と同一視などしていない。ひどい編集に抗議中」と。ま、その後NHKが謝ってきたらしいが‥‥。 


 要は事故率の数字である。同じオスプレイでも海兵隊用(輸送)と空軍用(特殊作戦)では、仕様も使い方も異なり、事故率は海兵隊用の1.93に対して空軍用は13.47と飛び抜けて高い。新聞報道も「高い」「低い」と戸惑っている。沖縄の現実を前に、NHKは小川氏のあげた数字を出しにくかったのだろう。 


 新聞・テレビに限らない。行政から住民運動まで、一人歩きする数字がことを左右する例は多い。数字の発信者が政治的でも、多分にいかがわしくても、そうである。その最たるものが、原子力発電のコストだった。その化けの皮は、この1年ではがれてしまったが、まだまだある。 


 脱原発で再生可能エネルギーへの転換は、日本経済に膨大な負担をかけるという、電力会社と経産省が出した数字にもウソがある。節電の数字だって、十分にインチキである。なのに、15%だ、20%だという数字が出ると、さあ、計画停電だ、原発の再稼働が必要だと、話の進み方がまことに情緒的である。 


 そもそも、電力不足と原発の安全とは、まったく別の話だ。電力が足らなければ、どこまで節電が可能かを、電力会社と社会が一体になってギリギリの可能性を積上げて、さあどうだというのが筋のはず。ところが、政府もメディアも数字を疑わない。そうしてうやむやと大飯原発が再稼働すると、関西電力は火力発電を8基も止めたという。数字は何だったのか。 


 その数字も、さすがに電力料金値上げでは、メディアも政府も自治体までが目を皿のようにして、おかしな点を見つけ出している。いいことだ。数字はもっともらしいが、読める人にはアナも見える。そういう冷静な分析をしつこく発信するのが、メディアの役割である。 


 オスプレイはすでにハワイを発って、岩国などへ向かっている。報道は今度は、国内の7つの訓練飛行ルートの安全の話に移っている。それも、「あんな危険なものが、低空飛行で」といういい方だ。ヘリの後継機なのだから、低空は当たり前だろうに。 


 それよりも、本当に危険なのか安全なのかだ。まずは今年続いた事故の原因で、政府が納得できる説明を、米側からもらわないといけない。納得できなければ突き返す、くらいの覚悟でないと、沖縄や岩国の説得は望めまい。行政協定がどうのこうのなんて、もうだれも耳を貸さないのだから。 


 話は原発と同じだ。大元が安全でないのなら、稼働してはいけない、飛ばせてはいけない。アメリカはマニュアルの国である。事故が起こって、もし部品やシステムに不具合があれば、同じものを使っている飛行機は全世界で一斉に飛行停止がかかる。第二次大戦以来のシステムだ。 


 オスプレイは操縦が難しいといわれる。いまのところ、飛行停止になったという話はない。政府はこの辺りをきっちりと確かめてもらいたいものだ。少なくとも、数字を情緒的に扱ってはいけない。

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