2012年3月24日土曜日

球団と新聞の区別もつかないとは


 日本テレビの朝のワイド「とくダネ」で、キャスターの小倉智昭が、「今日(15日)の朝日新聞を見た人は、スポーツ新聞かと思ったかも」といった。たしかに1面トップで、読売巨人軍が6人の選手に計36億円の契約を結んでいて、12球団が申し合わせた最高標準額を超えていたとある。

 いまのルールでは「1億円+出来高払い5000万円」である。04年に横浜と西武が当時の最高標準額(申し合わせ。金額は一緒)を越える契約をしていたことが、07年に明らかになって、大騒ぎの末に2球団はコミッショナーから厳重注意処分を受けて、さらに「最高標準額」もルールになった。

 これをたてに巨人は、朝日の取材に「ルールは07年1月にできた。それまでは球団の申し合わせで、ひとつの目安だった。6選手の話は、97年から04年度の間だ。だからルール違反ではない」と突っぱねていた。ま、モラルに目をつぶればばその通りである。

 ただ、朝日が「内部資料をもとに」と並べた金額は、モラルなんてものではなかった。阿部慎之助(2000年)10億円、野間口貴彦(04年)7億円、高橋由伸(97年)6億5000万円、上原浩治(98年)5億円、二岡智宏(98年)5億円、内海哲也(03年)2億5000万円である。

 巨人と金の話はいまいま始まったことではないし、ドラフトを札束でゆがめてきたことは、日本中が知っている。それでもこの金額には、だれもが絶句した。あらためて、高橋がヤクルト、上原は大リーグ、二岡は広島と報じられていたのが、どたんばでひっくり返ったあたりを、「やっぱり」と思い出す向きもあった。

 しかし面白いもので、怒り方は人それぞれだ。筋金入りの西武ファンである小倉のいいたいことは別のところにあった。
 「04年に横浜や西武があれだけ大きなニュースになって、西武なんか上層部が責任をとった。あれは何なの? 野間口も同じ04年ですよ。その時になんで巨人さん、バックアップしてくれなかったのよ。『ルールじゃないんだよ』と。そう思うじゃないですか」

 わたしの先輩になる朝日のOBは、別のことで怒っていた。「これがどうしてけしからんのか。記事を読む限り、巨人がいうようにルール違反ではない。それがどうして1面トップなんだ。朝日はいつからプロ野球の守護神になった?」

 で、わたしはというと、また別のところでひっかかった。朝日の取材を受けた巨人は、まだ記事も出ていないのに、報道機関に反論書を配った。「朝日はこういう取材をしているが」とご丁寧に朝日の質問書までつけていた。これはルール違反である。

 いや、別にきちっとしたルールがあるわけではないが、報道機関の取材内容を他の報道機関に見せるのは、信義にもとる。たとえあったとしても本来ウラ技であって、ファクスで堂々と流してしまっては、みもふたもない。

 またこれを受けて、読売(こちらは新聞)が巨人の反論と識者の談話などを派手に並べてみせた。朝日の記事と同じ15日の朝刊で反論という珍妙なことになった。報道機関としては、「朝日の記事を見てから」と巨人をたしなめるのが筋だろうに、一緒に熱くなっちゃった。明らかに勇み足である。もし朝日が掲載を遅らせていたら、ヨミの「裸踊り」になるところだ。

 まあこの辺りは、早番を届けるスパイが必ずいるから、お互いさま。わたしが担当だったら、早番でちょろっと顔を出しておいて、途中で引っ込めて、最終版でドカーンと遊んでやるところだが、いまの朝日にはへそ曲がりはいないらしい。

 どっちにしても、読売は新聞と球団の区別もつかないほど動揺していた。巨人は、朝日の取材資料配布で謝罪する一方で、朝日に抗議した。これを伝える読売もまた、資料の入手先や確認方法などを「本紙が朝日新聞にたずねた」などと、恥ずかし気もなく書く。大新聞どころか、政党新聞のレベルである。

 おまけに、朝日の記事の翌日には、先にナベツネこと渡辺恒雄氏とのあつれきで巨人の球団代表を辞めた、清武英利氏の暴露本が出た。これにも読売は、「球界から批判が噴出」などと書き、巨人はこれを伝えた共同通信と産経新聞に抗議する始末。

 文句をつけるにしても、朝日や清武本の内容を説明しないといけないのだから、かえって中身を吹聴する結果になった。なによりも、新聞が新聞に向かって、「ニュースソースを言え」なんて、まるで漫画だ。

 一方ナベツネはといえば、資料流出の犯人を清武氏と決めつけたうえに、「ドブネズミか泥棒ネコか」と警察沙汰にもしかねない口ぶりだ。この問題で世間が見ているのはそんなことじゃあるまいに。

 清武氏が代表になったのは04年。今回の著書はそれ以後の話だから、04年までを書いた朝日の内容とは時期が違う。ただ、なかに「過去の資料」について、「代表室の金庫にあったものを、社長室へもっていった」というくだりがある。これがかえって「怪しい」と見る向きもあるらしい。

 まあ、どっちでもいい。答えは出ているのだ。この大金が払われた8年間に、巨人はリーグ優勝3回、日本一は2回。その後の7年間は2回と1回だ。そのバカバカしさを数字で出しただけで、勝負ありである。

0 件のコメント:

コメントを投稿