2010年7月15日木曜日

情報がなぜ化ける?


 どうも腑に落ちない。参院選での民主の敗因は、菅首相の「消費税10%」発言だという。現場は思いもかけぬ逆風にさらされ、その風をうまくつかんだ自民が1人区で圧勝し、みんなの党が漁夫の利を得た。それに違いはないだろうが、腑に落ちないのは、菅発言の伝わり方である。

 菅首相本人も言う通り、消費税への言及は「唐突」だった。参院選公示の第一声で、「財政再建の必要がある。超党派で税制論議を始めよう」と訴えた。それ自体は立派な見識だが、「自民党が消費税10%といっている。これは参考になる」と余計なことをいった。これが一人歩きを始める。

 野党は一斉に、「消費税10%」「4年間あげないというマニフェスト違反」と攻撃し始めた。政治家はこの程度の言い換えは日常茶飯事だが、メディアまでが「10%増税」と書き始める。首相はさらに、「論議を始めようというのはマニフェストと考えていい」といったために、「増税はマニフェスト」になる。

 「選挙後に論議を」というのが、「すぐにも増税」にすり替わり、おまけに党内論議抜きだったから、党執行部も候補者も立往生した。すると小沢前幹事長が、遊説先で勝手に「マニフェストにはずれてる」と首相批判を始めた。なんとも最悪、最低である。

 一般の有権者でも、テレビの街頭インタビューなどで見るかぎり、この辺りを正確に理解している人はけっこういた。にもかかわらず、メディアの伝え方が、「すぐにも増税」という印象を増幅させていくのには、開いた口がふさがらなかった。とくにテレビのワイドショーなどでは、話が単純化されて語られた。

 菅首相は、「増税前には民意を問う」といっているのだから、元々のマニフェストにははずれていない。ところが当の首相は、ストレートに訂正するのではなく、「低所得者には負担を軽く」などと言い訳めいたいい方をするものだから、もう増税は既定の事実になってしまった。実におかしな情報の伝わり方だった。

 ひとことでいえば、バッカじゃなかろか、である。首相もそうだし、それをきちんと修正できない民主党執行部も、平気で事実を曲げて攻撃材料にする野党も、もひとつマスコミも、みんなバカになったとしかいいようがない。これじゃ、ツイッター以上に危ないのは、人の口だということになる。

 菅首相の念頭にはおそらくサミットがあった。財政再建策がメーンテーマである。その場で、日本はこれこれをやる、という必要があった。財務相になってから、この問題では危機感をもっていた。だから公示の第一声でそれを口にし、その足でカナダへ飛んだ。

 しかし、党内でそんな意識をもってる人間はいなかった。むしろ自民党に、それはあった。先に「10%」とマニフェストでいっていた。首相には、これに対抗する気持ちもあったのだろう。

 事実、首相発言に石破・自民党政調会長がいった「抱きつきお化け」といういい方には、とりこまれることへの危機感が感じられた。しかし、「増税」で攻撃する方がはるかに有効だ。首相は墓穴を掘ったのである。

 幻の情報に影響された有権者がどれくらいいたかは、測りようがない。しかし、結果は現実だ。自民の大勝もみんなの党の躍進も、動かない現実である。

 朝のテレビでみのもんたが、「菅さんが、『自民は消費税をいうが、われわれはまずムダを省いて、国会議員自ら血を流して、それからですよ』と言ってたら、全然違ってたでしょうね」といっていた。コメント陣は一斉にうなずいていたが、どう違ったかは、これまた測りようがない。

 既存のメディア、とりわけ一般紙が選挙の報道に慎重なのは、情報が選挙結果を左右するからである。メディアは中立、これが日本の建前で、長年これでやってきた。ところが今回は、そもそもの基礎データが、数字のつまみ食いに走ってしまった。誤解を招くような情報を流して、それが広まっても平気なメディアとは、いったい何なのか。

 朝日新聞の座談会で古川貞二郎・元官房副長官が、「メディアは事柄の軽重にもっと洞察力をもつべきだ。‥‥何が本質なのか、メリハリをつけてほしい」といっていた。意味はわかるが、今回のはそれ以前の話だから気が滅入る。

 民主党が負けたのは、鳩山・小沢の迷走の方がはるかに大きいだろう。バレーボールの三屋裕子がうまいいい方をしていた。「ノーアウト満塁にしたのは誰なんだ。菅さん、枝野さんに自責点はあるのか?」と。菅投手はそこで、消費税という大暴投をやったのだが、さて自責点は?というわけである。

 民主党内には、「総括が必要だ」という声があがっているそうだが、本当に総括が必要なのはメディアの方であろう。鳩山・小沢が迷走していたとき、「事柄の軽重に洞察力」を欠き、「本質」を見誤ったのは間違いないのだから。

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