2010年7月4日日曜日

ネットのリテラシー


 参院選の選挙期間が半分過ぎたが、新聞・テレビの報道は、ワールドカップのせいもあってか、低調なように見える。討論会に党首が9人も並ぶなんて有様では、有権者の方も手がかりがつかみにくい。

 いまのところ、世論調査で「投票にいく(必ず、多分)」が9割近いというのだけが、変化を予感させる材料だ。去年の衆院選より面白いことになるかもしれない? ここにネットがどう関わってくるかに注目している。

 せっかく一部解禁の流れだったネットでの選挙運動が、小鳩退陣のあおりで法案審議が間に合わず、今回は見送りになった。といっても、公選法はあくまで選挙運動に関する規制だから、運動ではない勝手なブログの書き込みはまったく自由だし、ツイッターに至ってはアミのかけようもない。ネットの政治的発言は、けっこう盛んである。

 驚いたのは、菅首相誕生と同時に、首相を騙るツイッターがいくつも出現したことだった。本物だと思って、フォロワーが1万を超えたものもあったというから、はめられた人は腹も立とう。何百万人が善人でも、ワルは1人2人で効果を出せる。それがネット。

 例えば、「あの候補に投票するな」と書いたら、現行法でも選挙妨害になるかもしれないが、個人のつぶやきで「あいつは嫌いだ」「過去にこんなことをやったやつだ」と書くのは自由だ。内容が事実なら、どうにもならない。そこへまた、巧みにウソや思い込みを織り込まれたりしたら、完全にアウトである。

 「ニセ菅」にしても、投票日の前々日くらいに出現して、あることないこと書かれたら、どうなっただろう。当事者が発見して、警察に通報して、それからネット管理者をたどって‥‥なんてやってるうちに、投票日だ。たとえふん捕まえたとしても後の祭り。どんな影響が出るかは、神のみぞ知るだ。

 だいいち、これが罪になるのか、ならないのかすらよくわからない。ネットの世界は、法律のはるか先をゆく。現行の公選法は、候補者は放っておくと何をするかわからない、という性悪説の上に、あれもいかんこれもいかんと、がんじがらめにした「べからず集」である。

 だから、「選挙のアルバイトに報酬を払ってはいけない」なんていうバカな条項が残っている。最近の選挙で摘発される違反の大部分がこれである。いまどき、無報酬で選挙の手伝いがいるはずがない。みんな払っているのに、不慣れな陣営が証拠を残したりすると、パクリとやられる。

 こんな時代遅れの公選法が、ネットに対応しきれるわけがない。ブログやツイッターの「勝手連」とか「まつり」みたいなこと、逆に貶めるものもが現れてもおかしくはない。とりあえずは、悪意のあるデマ、中傷の類いをすばやく追跡するような手だてを講ずるしかあるまい。しかし、おそらく警察ができるのはそこまでだ。

 ネットの対応は、ネット人がやるしかないのだろう。「ネットのリテラシー」とでもいったらいいか。ウソとホントを見分ける目である。携帯も含めて、ネットに慣れている若い人たちは、相当な目をもっているようだが、危ないのは私のような世代だ。ネットでも活字を見るとまずは信用してしまう。

 面白いもので、純然たる意見を除けば、ネットを流れている情報のほとんどは正確、あるいはバランスされている。ニュースサイトでもチャットでも、内容がおかしいとたちまち突っ込みが入るから、絶えず修正・訂正されていく。結果として、正しい情報がネット上に残る。既存のメディアでは逆立ちしてもできない柔軟性だ。

 ネット百科のウイキペディアがいい例で、論争になるテーマでも、いろんな人が書き込み、訂正していくと、自ずと落ち着くところへ落ち着く、あるいは異論が併記されていく。これはある意味、驚くべきネットの機能である。ただ、スピードのあるネット情報がどう展開するか、これがわからない。

 ひところしきりに、「情報格差」ということがいわれた。ネットを知る、知らないで大きな格差ができるというのだ。それはその通りだろう。

 しかし、ネットを知らない人たちが大いに不利益を被っているかといえば、そんなことはない。ネットで知りうることの大部分は、知らなくてもどうってことないもの。どうしても知ってないといけないものは、少し遅れて普通のメディアに必ず出てくるものである。

 選挙という短い時間の中で起こりうる格差、それに、悪意が重なったらどうなるかだ。ツイッターが暴走したときに、「リテラシー」が働くかどうか。答えはまだ誰も知らない。杞憂であればいい。が、杞憂で終わったら逆に、日本人は何と平和なと、首を傾げるべきかもしれない。

 朝日新聞に気になる記事が出ていた。ネット人への調査で、若い世代ほど他人を信じやすくなっているという。数字の上では、歳をとると見事に疑り深い。ふと、「これは日本だけの現象ではないのか?」と心配になった。

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