2012年11月2日金曜日

写真を取り違えるなんて



 尼崎市の連続死体遺棄事件は、男女8人が死亡または不明という何とも奇怪な話だが、その報道でまた、メディアが脇の甘さをさらけ出した。中心人物として連日名前が出ている角田美代子被告(64=傷害致死などで起訴)とされる写真が別人のものだったのだ。

 読売新聞が最初だったらしいが、共同通信も流したため、ほとんどのテレビ・新聞が使っていた。角田の長男の小学校の入学式で撮った記念写真、という説明だった。長男の年齢からすれば、20年も前の写真ということになるが、角田はすでに40前後だったはずだ。

 そこへ「これは私の写真です」と尼崎市在住の女性(54)が弁護士を通して名乗り出たのである。各社一斉に謝った。面白いのは朝日新聞で、同じ写真を入手していたが、「別人の可能性」があるとして使わなかったという。

 先頃の「iPS細胞移植」の誤報を思い出した。読売が得ダネで報じて、共同も追いかけたが、朝日は取材はしていたが「怪しい」と記事にしなかった。朝日は抜き合いには弱いくせに、疑り深いらしい。それはそれでいいことだが‥‥。

 腑に落ちないのは、同じ写真がどうしていくつものメディアに顔を出したか、である。共同にしても、ヨミからもらうはずはないから、同じ写真をもとに「これが角田だ」と示した人間がいたはず。まずはその人間が確かなのか。さらに、周囲のだれもが「角田だ」と確認したのか。

 そんなはずはあるまい。要するにどこかで取材の手を抜いていたのである。件の女性は、彼女の写真がなぜ「角田」に化けたのかを知りたいといっているそうだ。メディアが誠実なら、遠からず弁護士はそのいきさつを明らかにできるだろう。大いに興味のあるところである。

 一連の報道でさらに腑に落ちないのは、この角田という女の素性が一向に見えないことだ。尼崎出身で4人家族だとか、スナックで働いていたとか、タクシー運転手と結婚したとか、話がとびとびであやふや。近年の女王様暮らしに至るまでが見えてこないのは、実に奇妙だ。

 一昔前なら、市役所へ駆け込んで戸籍謄本から関係者をたどって、芋づる式に素性を割り出すのは、真っ先にやることだった。顔写真なんか、その過程で簡単に手に入ったものである。いま、個人情報保護でその手は使えなくなった。わかっているのは警察だけだ。しかし、その警察から情報がとれない。

 連日伝えられる事件の相関図は、角田被告の縁戚関係と死者・不明者の位置づけだ。8人以外にも事故死や病死者がいて、保険金詐欺を疑われるケースもある。しかし、「戸籍上の妹」だとか、わけのわからない人物が並んで、まるで判じ物だ。

 しかも、肝心の部分——角田から先がない。結婚していたのなら夫はどこへいった、両親や兄弟は、学校は、どんな生き方をしてきたのか‥‥接点のあった人間がいない。警察が知らせたくない、メディアに荒らされたくない部分が、すっぽりと抜け落ちているのではないか。

 事件は今後、死体遺棄の実行犯から殺人の解明へ、さらに金を脅し取ったり、詐取した経緯、保険金にまで伸びていくのだろう。それだけでも前代未聞の出来事だが、警察はもっと先をいっているはず。メディアは小出しの情報で体よく操られているようだ。

 肝心の角田の顔はいまもってわからない。護送される警察車両の後部座席で、カバーの下から片目だけが光っている不鮮明な画像だけだ。そのくせ自宅近くの商店街では、取り巻きを引き連れて歩く姿を大勢が見ている。マンションに招かれた人すらいた。他人の写真と見間違えるはずなぞなかろう。

 写真の取り違えは、取材のイロハを怠ったためだ。だが、情報を一方的に警察に抑えられてしまうようになったのも、メディアが招いたことである。連帯感をなくしてバラバラになったツケといっていい。要するになめられているのである。

 かつては警察でも官庁でも、メディアに受けの悪い役人は絶対に偉くなれないといわれた。ある経済官庁で、会見でよく記者たちに怒鳴られている課長がいた。「なんでボクは叱られるんでしょう」という彼を、特集記事で取りあげた。と、先輩が「君の記事で彼は生き返ったよ」といった。彼はその後とんとんと偉くなって、終いに国会議員になった。

 別にメディアに力があるわけではない。ただ、記者たちの眼を官は無視できなかった。警察でも、各社の警視庁キャップが集まれば、警視総監は耳を傾けざるをえなかった。だからこそ、こっそり情報が漏れてもきた。相互に信頼関係があったからである。

 いま、それが見事になくなった。事件報道の実際を見ていると、メディアはほとんどご用聞き。発表に注文をつけることすらできないらしい。そのくせ、「捜査関係者への取材でわかった」と書く。どんな取材だ。

 ちょうど、警視庁キャップだった先輩の訃報が届いた。メディアも警察も生き生きとしていた時代。古き良きとはいわないが、同じ時代を生きた元キャップは何人もいる。「なんでこうなっちゃったの」と聞いてみたい。彼らも歯ぎしりをしているはずだ。

2 件のコメント:

  1. 風評では 在日 ではと云われているのが 詳細を表示しない理由とも...

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  2. いわれてますね。でも、隠す理由がないでしょう。犯罪者なんですから。それに、学校でごねたりしている。在日ではちょっとできないでしょう。それより、案の定というか、事件がさらに広がりを見せてます。警察はずっと先を行っています。

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