2010年9月19日日曜日

なぜメディアは小沢にかぶれたか



 民主党の玄葉光一郎政調会長が、代表選報道で「信頼していたベテラン政治記者が、意外にも小沢神話に引きずられていた」と失望しているそうだ。「小沢氏のことだから、何か秘策があるはず」という思い込みだという。

 朝日新聞の星浩編集委員がコラムで伝えた。仲間の政治記者が「小沢が政策を語るのが新鮮だった。政策の中身より小沢の対応に興味があった」といっていたと。確かに、小沢は10年分くらいニコニコしたのだから、記者たちがびっくりしたのも、わからないではない。

 星自身は、終始小沢には批判的だったが、こうした空気はとっくに感じていたはず。それをいまになって玄葉の口を借りて、というのはちょっといただけない。まあ、同僚をナマで批判しにくいのはわかるが‥‥。

 ともかく、この「思い込み」で「根拠もなく小沢優勢と思い込んだ」(玄葉)結果、「国会議員は小沢優勢」という報道が投票前日くらいまで続いたのだった。終始変わらなかったのは、「圧倒的な菅支持」という世論である。これが党員・サポーター票にどれだけ反映されるか、も焦点だった。

 結果はご存知の通り「菅圧勝」だったが、集計の仕方が小選挙区制と同じ(多数を獲った方が1ポイント)だから、実は票差でみるとポイントほどの差にはなっていない。6:4だった地方議員の結果とほぼ同じなのだそうだ。世論ともかなりずれている。党員・サポーターにも、「小沢神話」は浸透していたということである。

 驚いたのは、ネットの人気投票の類いが、「世論」として一般メディアで報じられたことだった。ここでは、小沢が菅を逆転していたから、面白いと伝えたのかもしれないが、ネットの危うさ以上に、メディアよどうした、といいたくなる話だった。

 ネットの声が極めて保守的であることは、以前からわかっている。パソコンを操る世代は30-40代がコアで、一般世論とは著しく異なる集団だ。社会の閉塞感への不満も強いが、その解決に「強い指導者」を求める傾向も強い(世論調査)。昨年の衆院選のときでも、ネットの声は麻生太郎が優勢だった。

 実態はごく一部の声にすぎないものを、一般メディアがストレートに伝えたのだから驚く。「小沢かぶれ」の記者たちが、味方を見つけたような気分になったのかどうか。小沢もさっそく「ネットでは私を支持してくれている」と遊説先でぶっていたらしい。

 問題は「小沢神話」の中身だろう。彼の語った政策をよくよく聞けば、詰まるところは「首相の強権」で予算配分を決めていく、「役人にはできないことだ」というに尽きる。あとは「数合わせ」の手練手管、ねじれを何とかするのではないかという期待感である。

 具体的な話では、例えば「高速道路整備を無利子国債で」というのは、自民党時代の発想そのものだ。しかし、だれもがわかっているこの点を、はっきり書いたメディアはなかった。ご用聞きよろしく、言葉を伝えるだけだった。

 前出の星によると、玄葉は「(無利子国債は)10年前に決着している。政治記者は政策がわかってない」といっていたという。星は続けて、例の軽井沢での会合についても、「もっと突き放した切り口のレポートがあってもよかった。代表選はメディアにも苦い教訓だった」とまとめているが、なにをいまさら。

 避暑地での優雅な、しかし十分に生臭い会合を伝えるテレビ映像に、「160人も集まれる別荘かよ」とつぶやいた人がどれだけいたか。ジャーナリストはたとえ片足は永田町に踏み入れても、片足はこちらの側に置いておかないといけないのだ。それができないと、ご用聞きになってしまう。

 御厨貴・東大教授が朝日新聞のインタビューで、戦前の軍部と政党の結びつきなどの話の脈絡で、「現在、政党外の勢力は?」と問われて、「メディアだろう」と答えていたので驚いた。エッ? こんな頼りないメディアが?

 ところが御厨は「メディアが、『政権交代には意味がなかった』というキャンペーンを張ったら、国民はみんなそう思う。メディアは政権交代を否定せず、育てるようにしてもらいたい」といっていた。

 なるほど、確かにメディアにはその力がある。世論調査をみていても、あの報道がこういう反応になるんだな、と思うものは多い。「小沢神話」もそのひとつだし、逆に「菅は頼りない」というのもそうだ。これがテレビのワイドショーにはね返ると、いっそうステレオタイプになり、影響力はさらに増す。

 例えば「自民党時代と変わらないじゃないか」とよくいう。とんでもない、実際は大きく変わっている。正しくは、「変わらない連中もいる」「足を引っ張っている連中がいる」なのだが、これが簡単にお題目になって、政権交代そのものまで否定しかねない。出所はみな報道、評論なのだから嫌になる。

 彼らはまたぞろ、「次は予算がかかる3月がヤマ場。小沢の巻き返しがあるか」なんていっている。日本の将来のために、そうさせないのがメディアの役割だろうに。もっと泥臭く、単純であれ。プロ風を吹かすな。

 以前、政権交代にいちばん順応できないのはメディアではないか、と書いた覚えがあるが、それが現実になるのはやっぱり見たくない。(文中敬称略)

1 件のコメント:

  1. 今朝の朝日に、「小沢が出馬を表明したとき、国債の金利が上昇した」というのがあった。「財政破綻のリスク」を金融界がかぎとった結果だと。これは立派な代表選に関わる重要ニュースではないか(経済面には出ていたのなら、場所が違うだろう)。それを平気で、終わってから書くという神経がわからない。

     同じ記事はまた、そのとき国家戦略室のスタッフが、「小沢首相になれば、財政や経済はいずれたちゆかなくなる。日本に頼らない生き方をさせるために、子どもを留学させることにした」といっていたと。多分役人なんだろうが、これもひどい話だ。また、それを終わってから書くとはね。

    自分の国の政治に、ここまで傍観者になれるものか。政治報道に中立志向は要らないのです。

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