2011年11月4日金曜日
もうひとつの世界
先月初めに放送された「BSスカパー!」開局記念番組であったバトルが、いまだに話題になっている。ネットの動画でいつでも見られるからだ。ナマで見逃しても大丈夫と、友人がネットで教えてくれた。とんでもない時代になったものである。
この特番は10月1日、土日34時間にわたる構成で、総合司会は、フジ「とくダネ!」の小倉智昭と日テレ「スッキリ」の加藤浩次。朝の人気番組の顔が並んだ。バトルがあったのは1日深夜の時間帯、福島原発事故を追った岩井俊二監督のドキュメンタリー作品「friends after 3.11」だった。
スタジオトークに岩井監督、俳優の山本太郎らが出た。山本は、テレビ番組を降り、所属事務所もやめて、福島の被災者支援に打ち込んでいる。その山本が「毒を垂れ流す東電ばりに毒を吐きます!」と宣言して、司会の2人に突っかかった。
「キー局での皆さんの番組では、おそらく局側がブレーキをかけている」と地上波・情報番組の伝え方に異を唱えた。小倉は「ブレーキというより、入ってくる情報が、東電や政府の発表しかないから……」「それを流すだけでは、報道機関としてどうなのか。オリジナルの取材はしているのか? 放射能被害をきちんと追求しているのか」
加藤が、「踏み込んでるよ。少ない人数で取材をしているけれど」と応じたが、山本は「それでは、ただの御用局ですよ!」とまでいった。その後も、加藤と山本の「(事実を)隠していない」「隠している」という応酬が続いた。
テレビとしては耳の痛い話だ。情報番組の取材力なんてリポーターのレベルでしかないが、それをいうわけにもいかない。山本も報道番組との区別がついてない。といって、報道もあのていたらくである。つまり、山本の批判は新聞にも当てはまる。
「friends after 3.11」は見応えがあった。とくに、京都大学原子炉実験所助教の小出裕章のインタビューは出色だった。ナマの声はやはり活字とは違う。
「私の目からみると……戦争よりもひどいことが進行してる、福島で。でも殆どの人が気がついていない。ここは関西(京大)ではほとんど他人事です。汚染を正確に知ってほしい」
「原子力は衰退します。でも原子力が産み出してしまった核のゴミに立ち向かうという、どうしても必要な仕事がある。もう1度人生を生きられるなら、このためなら戻って来ます。原子力をすすめるためには二度と来ません」
もとはスカパーだが、ネットに載るといつでも、何度でも見られるのである。しかし、パソコンにもスマホにも無縁の人には別世界だ。存在すら知らない。にもかかわらずいま、人々は薄々感じている。山本のいう「情報」、新聞やテレビが伝えない情報がどこかにあると。
人々が集めた、あるいは接した情報や受ける実感が、メディアが伝える国や東電の発表としばしば食い違うからだ。メディアが隠すことはまずないが、真実を掘り出せなければ同じことである。本当に必要な情報が出てこなければ、向こうの世界の存在感が増す。ボールはいつも、こちら側にあるのだ。
ネットで発言する人たちの多くは、こちらの世界には顔を出さない。山本のように、自ら決別しないといけないのが現実だ。小倉も加藤も今回は両方に顔を出したことになるが、こちらの世界でレギュラーを持っていると、局にたてつくことはできない。
失うものがあるか、ないか。そして自分のアイデンティティーはどちらにあるかであろう。 先に会見で、内閣府の園田政務官が、浄化処理した原発の汚染水を飲んでみせるシーンがあった。ここで2つの世界がぶつかり合った。
東電は、処理した水を発電所内に散布していた。これを「安全か」と問われて東電は「口にしても大丈夫」「海水浴場の基準を満たしている」といった。「じゃあ一杯飲んでみたら」といったのは、フリーの記者だった。これに政務官が「いつでも」と応じ、次の会見で実行したのだ。
もともと飲用水ではないものを「飲め」というのは非常識だ。カイワレダイコンとはわけが違う。しかも飲んだ後に、「それで安全性が担保されたと思うか」と聞いたのもフリーの記者だった。その程度の人間をまともに受けた政務官もバカだ。これでは子どものケンカである。
フリーの記者を納得させればすむことだ。原発の現場、水の採取から検査の中身まで、洗いざらい見せればいい。一般メディアには、政府・東電はウソをつくまいという暗黙の了解がある。が、フリーの記者にそんなものはない。また、現地へ行かず、発表をそのまま書き、ウソをつかれても怒らない、既存メディアへの不信感もある。
もし記者のだれかが、「飲む必要はない」と園田氏を止めていたら、完璧だった。しかし飲ませちゃった以上、クラブもフリーもない、その場にいた記者全員が非常識、同罪である。フリーの記者だけを責めることはできまい。
もとはといえば、メディアが役割を果たしていないからである。市民は報道に首を傾げ、ネットに耳をそばだてる。もし役割をきちんと果たしていれば、ネット情報はゴミになる。
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