2011年4月18日月曜日
放射能が隠れ蓑?
高校の山登り仲間が亡くなって、習志野での通夜の席に同級生4人が顔を合わせた。みな同い年だから、元気だったのが先に逝ったら本来意気があがらないところだが、中の1人が東電のOBだったことから、お清めの席だというのに、例の話で盛り上がってしまった。
この男は理工系で、東電では安全担当だったというのだから、話の核心である。ところが、彼にいわせると「安全の問題でいろいろ提言しても、まったく聞き入れてもらえなかった」というのだ。理詰めの論議が通らない、経営や原発のイメージを守るといった、まったく別の論理で原発は動いていたのだという。
さすがに詳しいことは話さなかったが、「放射能がもれなくてよかったねぇ」という危ない綱渡りはいくつもあったという。東電はこれらを、鉄壁の秘密保持で切り抜けてきた。今回はじめて、その実情が見えてきたというのも、考えてみれば驚くべきことである。
最新の技術の上に作られていながら、とてつもない数の手作業がそれを支えていた。労働力の大半は立地した地元の人たちで、雇用と安全との一種のバーターである。しかし、その労働実態は外には出さない。防護服と線量計に守られた何百人もの姿なんて、出せるわけもない。
メディアもまた、東電のシナリオで動いていた。出てくるのは、理論と設計図と原子炉の仕組みと何重もの安全措置、だから安全だという結論と経済効果だけ。安全措置を支えるのが人海戦術であったというのが、すっぽりと抜け落ちていたのである。
今回これをぶち破ったのは津波だった。安全基準がどうこういったところで、千年に一度の大津波を想定できなくてもある意味仕方があるまい。ここまでは天災だった。問題はそのあとだ。津波で原発全体がどうなったか、それを把握した上で、真っ先にやるべきことは何か。この判断を誤ったのである。
なによりも東電の秘密主義があった。原発が壊れたらどうなるか、の安全判断よりも、他の論理が優先したのだ。科学的な事実、理詰めが必要なときに、長年の経営志向から抜けきれなかったトップの責任は重い。
しかも秘密主義は、事故が起こってからも続いた。少しづつ小出しにされる事実にメディアも国民も、また各国の専門家、政治家もいらだった。サルコジ大統領がなぜ飛んできたのか。フランスの政治的思惑はともかく、東電をコントロールできない、日本政府に対する不信の表明は明らかだ。
米軍は、最初の爆発事故の3日後には、無人偵察機「グローバルホーク」を原発上空に飛ばした。これがいまのところ、壊れた建屋の様子を間近に知る唯一のデータである。日本政府の要請ということになっているが、怪しいものだ。だれよりもアメリカが欲しいデータだったはずである。
そもそも政府が出した「上空飛行禁止」がよくわからない。高度1000mでもだめなのか? 2000mでは? 「30キロ以内撮影禁止」なんて、メディアがなぜおとなしく従っているのかもわからない。防護服を着ればすむことではないか。原発の敷地内でだって撮れるはずだ。秘密主義はいまもって生きている。
津波直後の福島第1、第2の映像・写真が10日、新聞.テレビに出た。「ああ、これでは」と、ひと目で被害のひどさがわかる。しかし発表が津波からひと月後である。これをもし直後に公表していたら、世界中が戦慄したはず。その後の専門家の論議も大きく違っただろう。
しかし、東電も原子力安全・保安院も、爆発の被害や汚染、放水の話ばかりを流し続けた。あたかも原発全体は正常であるかのように‥‥メディアも概して全体像には無頓着だった。ここがもっとも肝心なところだ。
写真と同時に被害状況も発表されたが、こちらはひょっとして、1ヶ月たってやっと把握したのではないのか。何百人という作業員の作業の実態は依然わからないままだ。が、メディアは相変わらず結果(発表)だけだ。
ひと月の区切りに、新聞・テレビがまとめをいろいろ出した。ポイントは2つ。東電の秘密主義と官邸の機能不全だ。ことの始まりでは東電が、その後は菅首相の指揮官としての能力だという。首相にこうした評価が出ること自体、情報というものの意味と扱いをわかっていない証拠だ。
そして、話はやっぱりメディアに戻る。作家の赤川次郎が、「原発報道は腰が引けている」と朝日新聞に書いていた。「新聞のコラムで、安全だという話を無批判に流したメディア、などと書いてあって呆れた」という。確かにメディアは、原発に関しては電力会社の手のひらに乗った孫悟空の感がある。
それはいまも続く。「原発収束の工程表」の報道でも、「原子炉建屋にすっぽりと覆いを」なんて発表通りを伝えている。テレビでは、模型の原子炉に箱みたいなものをポイとかぶせて見せる。それがどんなに大変な工事か、しかも高い放射能の中である。「そんなものできるのかよ」という疑念がない。
放射能という目に見えないカベがそうさせるのか。東電もまた、それをフルに利用してきたのではないのか。「まず、現場を踏め」という鉄則を怠ったツケは、どこかで払わないといけない。
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