イギリス人語学教師の死体遺棄容疑で逮捕された市橋達也(30)の送検取材(12日)で、車の前に飛び出したTBSのディレクター(30)が公務執行妨害で逮捕された。これは珍しい。しかし、どうやら理由があった。
そもそもは前日の護送取材である。これは、めちゃくちゃだった。東京駅ホームでは、テレビカメラを押しのけてスチルカメラが突撃するのを久しぶりにみた。よくまあこれだけと思うほどのカメラマン。いったい何人いたか。
ところが結果は、市橋が黒いジャンパーをすっぽりかぶせられていたから、車に乗るときなど、それこそ一瞬をとらえたところが何社か。あとは見事 空振りだったのである。そこで、行徳署に「送検では顔を撮らせてくれ」と申し入れてあったらしい。一般人を閉め出し、押し合いは避けるという了解である。
この日も250人くらいいたらしいが、規制線が張ってあって、みな脚立に乗ったりして位置を保っていた。警察も顔を隠さなかった。そこへTBSが1人だけ飛び出したわけだ。警察にしてみれば、「自分らで決めたルールも守れないのか」となる。
そして1人が飛び出したあとは、部分的にだが前日とまったく同じになった。バカ丸出しとはこのこと。現に顔はなんとか撮れているのだから、わざわざ騒ぎを起こす必要なんかない。
なぜああなるかというと、ひとつは人権への配慮から警察が顔を出さなくなったこと。今回はとくに、整形したあとの顔がひとつのポイントだった。混乱は必至だから撮れないかもしれない。そこで何人もカメラマンを出す。さらにまた混乱する‥‥。
もうひとつは、スチルカメラにある。市橋騒ぎは戸外だから、あたりへの迷惑もあまりないかもしれないが、記者会見となると話が違う。あのガチャガチャ、ピカピカは実害が出る。会見の話がナマでは聞こえないことがあるのだ。
日本郵政の西川善文社長の退任会見はひどいものだった。席に着くやいなや、西川氏の鼻の先でガチャガチャ、ピカピカだからたまらない。「カメラ がうるさい」「話せない」。ようやく収まって、「私は本日辞任を決意いたしました。で、この……」と顔をあげたとたんに、またガチャガチャ、ピカピカ。
氏は「出て行ってくださいよ。こんな近くでガチャガチャやられたら、頭の悪い私が混乱しますよ」。テレビだからマイクで聞こえたのだが、現場の ライターたちはおそらく全部は聞こえなかっただろう。そのために、記者たちはみな小さな録音機をテーブルに並べている。それじゃ話が逆だろう。
スチルカメラは東京オリンピックでワインダーがついてからずっとこうである。もう45年にもなる。昔のワインダーはもっと音が大きかったが、フィルムには限りがあるから、自ずと回数は抑えられた。それがいまはデジタルだから、枚数は無制限に近い。
おまけに最近はカメラの数がべらぼうなうえに、会見では表情を撮るのだから、ずっとシャッターを押し続ける。会見が終わるまでガチャガチャ、ピカピカ‥‥。
テレビカメラの方は、会見場では三脚で固定しているからおとなしい。音もしない。しかし、ひとたび動き出したら始末が悪い。やみくもに被写体に近づこうとするから、まわりはみんな敵だ。メディアの連帯感なんて吹っ飛ぶ。混乱のもうひとつの原因である。
そのテレビのレポーターが西川会見を、「1メートルくらいで撮るんですから‥‥といって撮らないわけにもいかない。報道陣のなかでの話し合いになるのでしょうが」と、日頃の押し合いを棚にあげていっていた。たしかにポイントはそこだ。
メディアの多様化で、そうした話し合いがしにくいのは確かだ。しかし、きちんとしようと思えば、できなくはない。現に行徳署の2日目には、 TBSが飛び出すまでは、みなお行儀よくしていた。いちばん話が通らないのもまた、テレビなのである。逮捕は一罰百戒のつもりだろう。
だから会見ならなんとかなる。西川会見だって、もっと大きな部屋なら問題にならなかったかもしれない。ただ、事件の発生ものはだめだ。話し合いなどする余裕はない。するとまた元の木阿弥。ずっとその繰り返しなのである。
ならばせめて、音の出ないカメラくらい作れないものか。一番の騒音は、シャッターチャージのモーター音なのだそうだ。技術的にはたいした問題ではなかろうと思うのだが、音が全く出ないと今度は別の問題が起こるのだと。
コンパクトデジカメや携帯カメラは、本来音はしない。ところが、スカートの中を撮ったりする不心得者がいるからと、わざわざ音を出しているのである。なにやら、電気自動車に音をつける話と似ている。
何かがおかしくないか、世の中‥‥。
2009年11月13日金曜日
スチルカメラの突撃
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