2009年8月29日土曜日

覚せい剤より気になるもの


 タレントの酒井法子が、覚せい剤取締法違反容疑(所持)で送検された。使用についても追送検されているから、いずれ起訴されるだろう。所属事務所も解雇を発表した。なんともバカな話である。

 それにしても、とろい報道だった。とにかく事実の出方が遅いのだ。「身を隠していたのは、覚せい剤を抜くためだった」という自供が伝わったのが、逮捕から2週間も経ってからというのだからあきれる。

 酒井法子がいかに人気者だとはいえ、事件としてはたいしたもんじゃない。夫に勧められてやった。夫が逮捕されたので、クスリを抜くために逃げた。この間、だれとどこにいました。これだけを聞き出すのに、2週間もかかるほど、日本の警察はやわじゃなかろう。

 事件の概要はすぐにもわかっていたはずだ。逃走に関わった人は多いし、夫も逮捕されている。事実関係をつきあわせれば、ボロはたちまち破れる。しかし、それらの事実が出てこない。

 なぜ、こんなつまらんデータが出てこないのか。いったん逮捕されてしまえば、以後出てくる事実はすべて警察が握る。かつて警察はメディアの求め に応じて、それらを筋道立ててきちんと発表した。ときには特ダネも出た。ところがいまは、事実の一つひとつが細切れで小出しになっている。

 おそらくは、警察が変わったのである。メディアへ情報を流すことを重視しなくなった、というより内部できびしく禁じているのかもしれない。今回の事件だけでなく、地方の小さな事件でもことごとくそうだから、警察全体がそうなんだろうと推測するしかない。

 しかし、それに甘んじているメディアもメディアだ。もし警察全体の問題なら、一線の記者が警察署をつついてもどうにもならない。東京の編集局長 と警察庁長官との話し合いに持ち込んで、ルールを確認すべき話だ。少なくとも、なぜそうなのかを明らかにする必要がある。しかし、それがないということ は、メディアの側にもその気がないといわれても仕方なかろう。

 芸能人では同じ頃、押尾学が麻薬取締法違反で逮捕されている。こちらは、ADMAという合成麻薬の使用で、六本木の高級マンションで同衾してい た女性が死んでいる。しかも、重篤な状態の女性を放っておいて、マネージャーを呼んで自分は逃げている。とんでもないチンピラ野郎だ。

 これもしかし、情報は発生段階でばったり止まったままだ。誰かに電話したら「逃げろ」といった(そいつもろくでもねぇ野郎だ)とか。110番ま でに3時間もかかったのはなぜか。女性の携帯電話が、マンション近くの植え込みで見つかったのはなぜ? もう3週間以上、警察がかかえこんだままである。

 人が一人死んでいるというのに、いい神経している。国民に知らせる必要なんかないというのか。こんな調子では、どんな大事件が起こっても、警察 の一存で情報をコントロールできてしまうだろう。メディアが黙っていれば、確実にそうなる。いや現状ですら、メディアが招いたといってもいいくらいのもの である。

 この2つの事件、一般紙では最小限の扱いしかしていないが、テレビは明けても暮れてもこれである。そのせいで選挙報道の時間が減ったともいわれる。

 05年の郵政選挙は「刺客騒動」などでたしかに大騒ぎはしたが、局によっては前回の3分の1というから驚く。朝日新聞はこれを「前回の過熱報道 を反省して」と書いていたが、そんなことはあるまい。テレビが反省なんかするものか。マニフェスト選挙では絵にならないだけのことである。

 世論調査でも歴史的な変化は間違いないというのに、テレビを引きつける何かが欠けている。過熱させるものがないのだ。

 テレビは、マニフェストの分析とかアナをさらけ出すのに最適の技術——画像、イラスト、CG、をもっている。本当をいえば、これらを駆使して、 地味な選挙を盛り上げてほしかったが、テレビをその気にさせられないのだから仕方がない。むしろ、酒井報道なんかにに負けたことを、政治家は恥ずべきかも しれない。

 そのテレビも、選挙の結果が出たとたんに走り出す。政権交代になったらとんでもない騒ぎになるだろう。選挙違反の摘発も始まる。今回注目は、そ こで警察がどう動くかだ。これまで警察は、常に与党に甘かった。親分が変わったとき、彼らの本性が見えるだろう。あと2日。へそ曲がり老人は、いまから楽 しみである。

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